おばけ出会ったお話
(2003.7.22up)

きゃー おばけ〜!

気づいてびっくり,見て仰天。
そんな不思議生命体との出会いは,大概において突然だ。
人はそれを”おばけ”とよぶ。
植物の世界にもある,納涼気分満点のおばけ。
世にも不思議,常識を覆すその形相,そ〜んなギョッとするおばけに出会ったお話。

 4月の終わり,代休だった主人について仕事場へ行った。
初めて足を踏み込む場所というのは,どんな見つけものがあるかとドキドキする。
くるりと一周,敷地を偵察するのが楽しみの一つだ。
おっ,これが噂のカスミサンショウウオの幼生ね。
ひゃ〜,トイレの天井にアシナガバチの巣がある! 
溝のケロやんは何ガエルかな? 
この葉っぱどこかでみたような,なんだっけ。
折しも春,この季節はどこを見ても躍動感に満ちていて面白い!
黄色のタンポポもきれいだなぁ。

 一通り敷地を回って見て,しゃがんで地面を物色中,ふっと振り向いたらー
「な,なんじゃこりゃー!」
思わず叫びそうになり,グッと飲み込んだ。
目の前にあったのが,まさしくおばけだった。

 そのおばけの姿は,五つ頭に体が幅広でぺったり,そして大きさはずば抜けてジャイアントで他を圧倒する。首の凹凸やスケスケ具合は,1度目にすれば夢にも出てきそうな常識破りのグロテスクさだ。
ははーん,これが俗に「おばけたんぽぽ」と呼ばれるおばけだな。
 いままでにも,首2つばかりのちびっ子おばけには何度か目撃したが,今回のおばけはそのスケールは比較にならない。
 ここまですごいのはなかなか見られない。上から下から前後左右から,じろじろ見ておかなくちゃ。

 人生色々,タンポポにも色々,日本に生えているタンポポは両手3セット分ほどあるが,このおばけタンポポは何物だろう。
花色は黄色で一つ狭まり,萼を見てくるりと反り返っているので2歩狭まり,実を見たら薄茶色なのでさらに限られてくる。このおばけの主は外来のタンポポ,セイヨウタンポポだ。

「これみてみてー!」
その辺にいた主人をニヤけながら手招きする。
こんな愉快なものは1人で見るにはもったいないではないか。
「気が付いていた?」
「しらなかった…」
ふっふっふ,驚いた顔をみるのがこれまた楽しかったりする。
 この場所っていうのがこれまた面白いことに,さっきから私が何度も往復している場所の真横なのだ。こんな巨大な不思議なタンポポ,どうして気が付かなかったんだろう。
しかも平日は日にのべ500人は軽く通る場所だ。だれか気が付いていたらきっと主人の耳に入っているだろう。
「今度,みんなにも紹介しておいてよ」
ここを通る皆にもギョッとさせてあげたい。


続々おばけ〜!

 いちど気になれば何かと目に付くようになるもの。自然観察的ミラクル現象だ。
 先日,ふらりと散歩していた道脇にメドハギがズラッと生えていた。
まるで毛むし?
おおっ! よく見たら先が変なものがあるではないか! 
まるでナマコか毛むしかというおばけだ。
ここにもあそこにも,あっちにも,その数たるや,20本あれば1本ぐらいあるんじゃないかというぐらいたくさんある。ここはメドハギおばけの穴場と認定したいぐらい頻度が高いぞ〜。

 次々と見ているうちに,こんなナマコ風に一字型が多いと感じる。でも,一文字に収まらずにさらなる発展型があり,S字型になったり,グチャグチャとした唐草のような模様がある。
どこにも変わり種があるように,0とかTとか+とか,放射状やらランダム型やらハートとか,そーんな形に発達しているものがあってもいいのに。
そう思って眼を皿のようにしてみた。

逆Sの字 逆ハテナ? げげっ もうグチャグチャ

 こりゃ惜しいなぁ,というものはあっても,なかなか思うようなナイスな複雑おばけは見つからない。

 どれをとっても一筆書きのおばけだらけなのだ。



振り向けば…またおばけ!

 おばけメドハギを堪能して,もう片側の山斜面沿いを覗いてみた…ら…
うわぁぁぁー なんじゃこりゃ〜!
想像もしてなかった花のお化けが出たー!

この花の元の姿,なんだかわかりますか?

 普通の姿はか弱げでキュート,風にゆらゆら揺れたりする花。その可愛らしい見映えとは裏腹に,帰化植物的ド根性も兼ね備えていて,毎年分布を広げる強さをもつ。そんなひたむきで可憐なアイドル的な姿に惹かれて,なんとファンクラブまである花である。
そう,それはマツバウンランだ!
こんなヒネリを加えたグロテスクな姿やビッシリと密集している花を,ファン倶楽部のメンバーが見たら卒倒するかもしれない。
さっきの一筆書きメドハギおばけなんか,これにマツバウンランおばけに比べればナマコ姿が可愛いくさえ思える。


帯化現象

 今までの目撃例の姿のように,普通は一つしかない成長点が,たくさん増えてしまうおばけ現象は,正式には「帯化現象」と呼ばれるようだ。
名は体を表すで,帯という名が付くように帯のように成長点が並んでいる。

株まるごと兄弟皆おばけ,というわけでもなく
赤矢印おばけ,白矢印は正常,株は一つ
,同じ根っこでも株立ちしている兄弟たちは正常なのに,お化けがヒョコッと混じっていたりする。
 それに先に紹介したメドハギおばけ通りでも,地域としては密度が高いけど,そのある場所一点に密集してだけ多いわけでなく,地域全体に点々と続いていたのだ。

 その問題の帯化現象の原因についてだが,アブラムシなど何らかの虫の影響で,本来は点のはずの成長点が増えた,という意見もある。
虫こぶなどは寄生されてそこの植物の組織が変化してぷっくり膨らむこともあるし,言われてみるとそうかなぁと思ったりする。
 もうひとつ言われている原因に,土地の栄養ありすぎという説がある。
おばけ植物のジャイアント化を見たら,他の物に比べて立派に成長しているなぁと思う。でも,お化けが原因でジャイアント化するのか,ジャイアント化したからおばけになったのか…まるで「ニワトリvs卵論争」みたいで,その辺も疑問がのこる。
 原因が特定できなくってまだまだわからないからこそ,おばけの世界がますます魅力だ。

 帯化おばけは,植物の種類によってなりやすい・なりにくいがあるようだ。
よく見る植物はキクの仲間。
ガーベラ・スノーポール・そして帝王貝細工などなど,帯化おばけを見かけた方も多いと思う。

ごく普通の帝王貝細工 タワシのような帯化なもの

キク科では2タイプ見られる。
おばけタンポポのように,萼ごと付いた花首が並ぶいうおばけと,花の集合体は一つだけど,全体のが楕円形でなんかタワシ風で変だなぁ〜というもの。
そのほかの種類では,初夏に100個も花が付いているなどと写真入りで新聞の3面記事を飾ってる常連花はテッポウユリなどユリの仲間,それから土手沿いや空き地のおばけオオマツヨイグサもたまに見かけてギョッとなる。
帯化おばけ,それは草特有ではなく,木にだってある。
華道をされている方はたぶん手に取って剣山に立てたことがあるだろう石化柳,この柳は帯化がずーっと続いていて一つの品種となって商品化している。
不思議なところでは,桜の木でも見かけたのにはびっくりだった。

 この夏,もっと涼しくなるような帯化のお化けに逢えるだろうか。
例えば限りなくナマコ型の巨大帯化ヒマワリおばけとか,みんなギョッと振り向かせるだろう。
それから,ちょっと見てみたいのが帯化オオマツヨイグサおばけの夜の姿。
月夜にぼおぅっと照らされるその姿は,ものすごーく納涼感満点だと思うのだがー。
おばけ・おばけ・おばけ
そのギョッとする姿,それは出会ってからのお楽しみ。



おまけ

キャー こっちにもおばけ〜!



これは一体…エノコログサに何が起こったんだろう??
どうやら帯化おばけでもなさそうだけどー。
   ドロドロドロ…






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