ク モ  糸  ハナグモを巡るお話
   
花に潜むクモ
 クモ。
 木々の間に糸を張ったり,糸を綴って隠れ家を造ったり。はたまた地面に穴を作ってひきこんだり,家の壁を這って虫をパクリのクモもいて,それぞれ生活様式は様々だ。日本にいる900種類以上のクモの半数近くは網を張らずに獲物を捕まえるらしい。

 我が家の花壇にはルドベキアという花が毎年咲く。最近,薄黄緑のクモが常駐するようになった。花に集まってくる虫を突然襲う,待ち伏せ型のハナグモだ。
 その名のごとく,花影にジッとしている。足を左右に開き,待ち伏せ姿勢はまるで松葉ガニ。だいたい私が見かけるときにはいつもこの格好。赤黄色の花に緑色だから一目瞭然で,こんなに目立って大丈夫なのかちょっと心配するが,それでも動かなければ忍者っぽく潜んでいられるのだろう。

 クモがちょっと気になるそんな最近,キョロパパさん
nao10さんからクモの画像を見せていただいた。ただ今,小橋家注目の的,同じ種類のハナグモだ。
キョロパパさんの見つけたハナクモ nao10さんの見つけたハナグモ
 キョロパパさんのハナグモはちっちゃな虫にお見事ガブリ!
 nao10さんのハナグモは大きなハエを捕まえて悦に入っている。
どちらも「得意感」が小さなクモの体いっぱいに出ている。
それに較べて小橋家のハナグモは,今日も寡黙にひっそり花の一部になりきってる。風に揺れたりして優雅に待ち伏せしている現場しか見たことない。
 むむむ,小橋家のハナグモ,彼だって生きる為の狩りぐらいする。チョウでもハチでもアリでもいい,ガバッと襲って喜んでいる現場が見てみたい。
 こっちの都合でそんな期待がどんどんハナグモに寄せられたのであった。

ハナグモはどこだ?
 さて翌朝6月21日,庭に出てルドベキアの花に直行だ。
あれ? どこだ?
相手は隠れのプロフェッショナル,ガクの裏にでも潜んでいないだろうか。
・・・いない。いつもいるところにいないと心配になる。
 梅雨の時期,雨粒が直撃したのでは・・・スズメの親子に見つかったのかも・・・カナヘビだって草によじ登って頑張っているし・・・野外は危険が一杯だ。

しかたがない。自然は厳しいなぁ〜。諦めて家に入ったら・・・
あれあれ,玄関の花瓶に生けたルドベキアの上で頑張っていたのは,庭でお馴染みのハナグモだった。
クモ誘拐犯人はこの私ー。
拉致してから丸2日間,たぶん絶食状態。ご・ごめんなさい。

 さて,可哀想な囚われのハナグモ,持ち場の花壇へ放そうと思ったとき,キラリ! 光る糸が花びらに絡まっているのがみえた。ハナグモというのは待ち伏せ型のクモである。この糸って,何だろう。気になるー。 キョロパパさんのハナグモ画像にも糸が見えていた。自分の眼で実際にハナグモの糸を確認すると,ますます疑問が湧いてくる。予定変更,我が家の秘境ベランダへお花ごとハナグモを持ち込んで,じっくり向き合うことにした。

囚われのハナグモ
 2階というのは風が強い。花はユラユラ揺れる。しかも,二つ目怪獣にじっと見つめられている。落ちつかないらしくて,ハナグモは花びらをあっちへウロウロ,こっちへウロウロ,少しもじっとしていない。

 そして,花びらの先へ来た時である。動きが止まって,足をうんと伸ばして,お尻を高く突き上げてじっとしている。
疲れたのかな?
しめしめ,今の間に足や体の模様を見たり撮ったりしてしまおう。
「あっ!」
 フワッ! 突然クモの体が浮き上がった。
 いつの間にか花びらとベランダを結ぶ糸が伸びていて,モノレールのように糸を伝って逃走している!
 むむむ,こうなったら先手必勝。
 空手チョップで逃げ糸を断ち切りだ!
逃げ道をなくしたクモはすごすご引き返してきた。やれやれ。

 さっきお尻を高く持ち上げていた時,逃走用の糸を吐いたのだろうか。周りのものに引っかからず,遠くへ糸をとばすために,うんとお尻をあげているのだろうか。いまやクモのお尻に目線は釘付け,手元に戻ってきたクモをジロジロ眺めているうちに,再びお
お尻の先から糸が・・・
尻を高く上げた。出るかな出るかな? 
 シュルシュルシュル・・・・
 おお,出た出たクモの糸,風に乗りどんどん伸びる。たなびき,揺らめき,とうとうベランダの手すりに到達。
 線が繋がったところですぐ伝うのかと思えば,たるんだ糸を足でコチョコチョしている。そしてピンと張ってから逃走だ。
お見事,スパイダース!
 おっとっと,感心している場合でなくて空手チョップで断ち切らねば逃げてしまう。
何度見ても面白い。面白いことは何度でも?
密やかなベランダだからこそできるお楽しみ,ジ〜ッと花あたりを見つめつつ,何度も空手チョップで空を切る私であった。

クモの糸って何のため?
 さて,よく質問コーナーで「クモはどうして自分のクモの巣に掛からないの?」とかの質問が出ている。その秘密は2種類のクモの糸。縦糸と横糸は性質が違うのだ。横糸はネバネバで虫を引っかけ用,縦糸は粘らず足場用。だから縦糸を伝って移動しているわけで,クモは自分の巣に引っかかることもなく自由に歩いて,餌の場所へ行けるのだ。実際に触ってみるとよく解る。まとわりつく横糸にぴんと張った縦糸,なんてうまくできているのかしらん。

空手チョップで立ちきったハナグモの糸,我が家のルドベキアの花びらに絡んでいたクモの糸,どちらだろう? それぞれを指でソウロリ触ってみる。ねばねばしないようだ。花に付いていた糸も逃走用・移動用の糸だろうか?

 さて,家の庭にはもう一種待ち伏せ型のクモがよくいる。ハナグモより毛だらけ感がちょっと強い。こっちのクモもちょっかい出すとお尻を挙げて糸を出すかな?
 ところが,このクモはハナグモより遙かに動作が機敏である。アッという間に葉の上を移動して,パッと空中ダイビング! そのお尻の先からは糸が出ていたのを私は見逃さなかった。このダイビングしたときの糸は命綱,ジャンプした体を守るために出すと考えるのが妥当だろう。このジャンプの糸だが,逃げる時だけでなく獲物を捕まえる時にも出しながら飛びつくらしい。

 考えてみればクモの糸と一言にいっても,色んな用途があるものだ。ルドベキアに絡んだクモ糸も,逃走用と命綱用と2通り考えられるかも知れない。

「クモって嫌い」
けっこうそういう方は多い。
私は山道で不意に顔に掛かるクモの糸にはゲゲッと閉口するが,クモ自体は好きでも嫌いでもない。でも,今回ハナグモが四つんばいでお尻を挙げて糸を吐いたり,糸にまつわる色んな苦労が見え隠れしてきて,クモもなかなか面白い奴だと思えるようになった。

・・・と色々考えていて
結局,小橋家のハナグモ,獲物をつかまえる姿をまだ見ていないことに気がついた。そう思って捜してみるけれど,放した花の周り・玄関の花瓶,思い当たるところどこにも姿は見当たらない。
空手チョップで困らせてしまったからなぁ・・・
糸を吐きながら家出してしまったかもしれないなぁ・・・。
 今度は私が花の側を通るたびにハナグモを待ち伏せしましょうか。


キョロパパさんnao10さん,ハナグモの画像をどうもありがとうございました。

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