気 分 探 偵落とし主誰だ
  
 @ それは1枚から始まった 

 幼稚園に長男を送った帰り道,フワリ,足下で風に舞う物がある。 
「あ,鳥の羽根!」 
 人間,価値観は人それぞれ。手を伸ばしシメシメと拾おうとする私とは対照的に,サトちゃんのお母さんは 
「まあーっ」 
 と悲壮な顔つき。きっと彼女の頭の中は,何者かに襲われて悲鳴を上げつつ逃げまどう一羽のかわいそうな鳥の姿が渦巻いていたに違いない。これでは  
「実はおとといあっち側の溝で拾ってねー,集団でゴソッと落っこちてたのよ」 
などとは言える雰囲気ではない。ましてや  
「しかも肉までついていて,結構生々しいのも拾ったワ」  
なんか口が裂けても言えない。 

 平成11年2月6日,冬にしては暖かく風もない午後,私と長男はいつもの通園路を帰宅中。突然目の前に現れたのはあるはずのない道であった。 
「こんなのあったけ?」 
 よくみると田圃と家の間に沿って約2m幅の鉄板がずずーっと遥か向こうの道まで続いている。どうやら工事車両通行用とみた。  
「人影もない。お昼休み中みたい。チョット通ってみてもいいよね」 
 しかも横にはドブ,いや野生味あふれる溝があり,臭そうな泥も見える。ドロといえば・・・そう,足跡。コレクションにない足跡が拾えるかも知れない。下心ありありな私たちは迷わず進む。普段見慣れた風景も角度が変わると新鮮に映って楽しめる。  
「フフフッ,ほーらやっぱり足跡発見! 怪しいと思ったのよね。うーん・・・,爪跡がないしこの形,いかにもネコって感じ」 
 ネコの足跡なんてそういえばスタンダードすぎてまだコレクションにはなかったぞ。これも何かの縁,飼い猫のミケでもタマでも見つけ物にはかわらない。この際採っておくとしよう。早速お昼食べたら石膏セット出動だ,などと算段しているうちに・・・。  
「あ,鳥の羽根」  
 ドブと田圃の間の斜面に数枚の羽根が落ちている。白黒のシマシマで結構大きい。  
「ここにもあるよ」  
 よく見るとあっちにもこっちにも異臭を放つドブの中まで,約2メートルの範囲に多数の鳥の羽根が散乱している。シマシマに限らずいろんな羽根の種類が見つかる。  
「何の羽根? 取りあえずいろんな模様を拾って,うちに帰ってから調べよう」 
 そしていつものごとく,主人の書斎の机上に羽根についての資料や図書館で借りた本が山積みされ散乱するのには,1日もかからなかった。 

 図鑑にもいろいろな物があるが,「野鳥の羽根」(世界文化社)という図鑑があるのにはビックリだ。鳥の羽根種類別,実物大で書いてあり,トンビなど大きな鳥の羽根になると収まり切れなくって本からはみ出している。 
「拾った羽根,似ている物はどれかな?」  
パラパラパラ,適当にめくってみる。  
「エゾライチョウ・・・」  
まさかまさか,ここは平地,ライチョウなんていたらビッグニュース。しかもエゾ物だ。  
「ヒメクイナ・・・」  
ヤンバルクイナの親戚? やれやれ。  
 これはもっと科学的に拾った羽根の分析をするが先決と見た。 

 図鑑を見てわかったのだが,鳥そのものの印象と一枚一枚の羽根の実態はずいぶん違う。 
 鳥の見えている部分は,1本の羽根のわずか端の部分だけ,その他の部分は羽根が重なりあい隠れていて,それぞれに個性あふれる模様,形をなしている。窓から差し出される白い手だけを見て,「あ,おかあさんだ!」と喜んでドアを開けると実はオオカミで食べられてしまったというのと同じである。 
 わかる人には羽根を1本みるだけで持ち主の鳥を当てることが出来るし,「これは初列風切羽の6番目だ!」などと,どの部分かまでわかるという。鳥の羽根一本といえども馬鹿にはできない。
 そこで,今回拾った羽根を並べてみる。ざっと分類すると,どうやら5パターンありそうだ。

@白黒シマシマ
 (約5〜8cm)
体羽? 
Aクリーム+黒
(約5cm)
体羽? 
Bグレー色
(約8cm)
 尾羽? 
Cグレー+茶+緑
白い班有り
(8cm) 体羽?
Dグレー+緑輝
(4-5cm)
肩の羽根?
 眺めるに,どうも見分けのための決定的な羽根が抜けている。体羽や端っこの羽根など,羽根収集家にするとポイッと見捨ててゆく物ばかり拾っているような気がする。でも,まてよ,現場にはやっぱり落ちていなかった。じゃあ,どういうこと? ・・・,シマッタ! もしかすると偶然通りがかった羽根収集家に先を越されてしまったのか?  

 思い起こせば最近似たような羽根を見たことがある。 
「父さん,見てみて。この羽根,シマシマに似てない?」  
「こないだ拾ったヤツ?」  
「そう,公園のアイガモの落とし物。大きさは同じだけど,だがちょっとシマシマさが違うね。」   
 ”カモっぽい”羽根らしいーそうは思ってもDの先緑の羽根は大きさといいキジっぽくも見える。いくら頭をひねっても@ーDを全部クリアーできる優等生を図鑑で見つけることはできなかった。 

「今の家に越してきたときに,近所でニワトリの頭だけが転がっていた怪事件あったじゃあない?」  
「あったね」  
「イタチの仕業っていわれてたし,今回カモっぽいから,イタチがカモを食べた跡?じゃ,そうすると見つからなかった大きな羽根はどうしたのかな?」  
「バリバリ食べた」  
「喉につかえるし,羽根だけで腹一杯になるよ」  
確かにイタチは出る。彗星を見に行こうと夜明け前に車のヘッドライトをつけたとき,面食らったイタチが目の前を4往復もしたのを笑ったことがある。 
 だけど我が家の近所でカモなんて見たことがない。 
「じゃ,その家の人,きのうカモ捕ってきてカモ鍋にしたんじゃろ」 
「大きな羽根は羽根バタキ,羽毛は小鳥の巣材用にお外にポイッ?」 
 ダイエーで食品売場に向かってエスカレーターで降りる私たちの想像はどんどんエスカレートしていった。 

       A続くときには続くもの  に続く

 
 
            A続くときには続くもの 
 
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