コ ウ モ リ 届 い た の よ ー

I家からの電話で始まった

  さんのお宅は四方八方が田圃で用水も側を通っていて,そんなに田舎でもないのに自然が豊だ。話しているとなにかと動物の話題が登場する。
「お宅で動物園できるんじゃないの?」
 イヌ・ウサギ・ハムスター,それに屋根の下にはツバメにスズメ,廊下をアマガエルが飛び跳ねるのも,寝たきりランチュウ3匹の水槽があるのも,ヌートリアが住み着きそうになって追い払われたのも,開かずの雨戸でコウモリぶら下がり事件があったも全部彼女の家だ。その上,イタチが頻繁に目撃されるがゆえに
「I家ではイタチまで飼ってるらしいわよ」
イタチ飼育疑惑まで囁かれている。

 そんな彼女から電話があったのは2000年3月20日。
「コウモリが庭に落ちてて・・・」
えっ?コウモリが? ああ,そうか,I家が舞台なら驚く事じゃないか。
「お父さんが見つけてね,まだ時間があまりたっていないみたい。小さいの」
「どうしたのかなあ,起きてみたけどまだ外は寒くて凍えちゃったのかなぁ−?」
「子供が幼稚園に持って行きたいっていうんよ。どうすればいい?」
てっきり私へのプレゼントか思ったが,ああ勘違い。とりあえず傷まないように冷暗所保存,そして,触った手はよく洗うように。
「幼稚園持っていって子供達が見た後・・・その後・・・欲しい?」
おおお,ヤッターと思いつつここは優等生のお答を用意いたしましょう。
「そうね,子供の気持ちを大切にしてあげて。もし幼稚園でお墓を作りたいっていうことになったらそっちを優先して上げてね」
「わかった,小橋のおばちゃんも見たいって言ってたよって,一応伝えておくわ」
 言わなくても解ってくれるのも,Iさんのいいところだ。

コウモリはたくさん飛んでいるけれど・・・

 コウモリー 我が家のまわりでは,春から秋にかけて夕暮れ時ともなるとパタパタ上空で飛んでいる。多いときには我が家の上空を何匹も何十匹も乱舞する。そんなに早く飛べるわけでないが,上へ下へと機敏な動きは見事なものだ。鳥の場合フワリくるり,急には曲がれない。コウモリはクキクキッぱたぱた自由自在,器用なものだ。
 今までコウモリを間近で見た記憶をたどってみた。

@小学校の時に「拾った」と言って生きたコウモリを箱に入れてくる男の子がいた。その時はブルブル震えるような動きのコウモリに横目で眺めるだけだった。今ではよく見ておけば良かった,もったいないことをしたと後悔している。
A2年前,側溝にコウモリがはまっていた。
既にミイラ進行形。棒でひっくり返したりしてみたが,かなりの異臭に閉口して後ろ髪を引かれつつれ,そそくさと引き上げた。急ぎの用があったのも運が悪かった。
Bやはり2年前,観光洞窟の壁面でコウモリが一匹ブラ下がっていた。手が届く範囲だったが背中を向けて就寝中。次男が何を思ったか「フーッ」息を吹きかけイタズラ。一瞬くすぐったそうに身悶えして,また寝てしまった。安眠妨害,悪いことをした。

 結局のところ,じっくり手にとって真っ正面から眺めたことがないのであった。

意外かなー幼稚園でのコウモリ反応

 Iさんちのコウモリの行方を心配しつつ,次の日幼稚園に迎えに行った。幼稚園では,死んだ生き物⇒即お墓,なのでいささか心配だ。
「おばちゃん,コウモリ見たいんだって?」
「可愛かったよー,私ダッコしちゃった!」
「私もー,フワフワだったよ」
 先生曰く「私もこのコウモリを見て子供達は気持ち悪がったり’お墓を作る!’と言うとばっかり思っていたんです。だけど,みんな広げたり興味持ってわさっていたんですよ。ビックリしました。」
 さっそく先生から”お土産です”と手渡されたコウモリ,広げたり触ったりしてみる。不思議なことに死体特有の嫌悪感が感じられない。思いの外ちっちゃくて毛が柔らかで,幼児にとっては縫いぐるみ感覚だったのかも知れない。
 幼児だけでなく,大人の間でもIさんの家のコウモリは人気者だ。保冷材入りの袋を覗いていると,何が入っているの?と通りがかりのお母さん達が次々に覗きに来る。とたん”ウワッ”とみんな一様にのけぞるが,
「へぇー近くで初めて見たー広げると大きくなるワー,スゴイ!」
「こんなに毛が柔らかいんだー」
 感動する大人の反応を見て,今度は「みてごらん」と客引きに回る。
 拾ったIさんのお父さんの功績は大きいぞ。

 H君に声を掛けられた。
「おばちゃんと一緒にお墓つくるー」
H君は先生に”コウモリを持って帰りたい”と懇願した唯一の幼児である。しかも彼は私の元に届けられたコウモリの行方がとても気になるらしい。その上,これから私がコウモリ墓を作ると思っているのだ。
「そりゃ小橋さん,H君と埋めた後でコッソリ墓荒らしでもしたら?」
怪しげな助言してくれる人まで現れた。

 帰宅後,まもなく彼は分厚い動物図鑑を抱えてやってきた。
 取りあえず,観察しよう。大人1人に子供3人,ちっちゃなコウモリを囲んで向かい合う。長男はどっから調達してきたのかちゃっかりビニール手袋まではめているではないか! しかもH君はササッとコウモリのページを開いて自主学習している。
「さあ,どれだろう? どれに似ていると思う?」
「アブラコウモリ!」
 さすがH君,予習はバッチリ。このコウモリは一般的によく見られ,他のコウモリが洞窟などに住むのに比べて民家の隙間などに住んでいる。体長(頭胴)4.4p,体重約5gと,ちょっと小ぶりだが個体差の範囲に収まる。顔つきといい,やはりアブラコウモリだろう。
 間近で見る感動のコウモリ,いかにその観察の驚きの点を挙げてみよう。

コウモリの観察記
●開げると驚くほど大きく見える。
 
閉じたとき横幅5p開いたとき横幅15p。 
約5倍だ
透かせて見ると
膜にもちゃんと血管がみえる。
手には5本の骨が揃っている
しっぽもある。
足の裏には
肉球が,弾力がありそう。
足の
爪はとても鋭い
毛がフワフワなめらかで,上質

じっと各部を観察しているとダニが匹這い出てきた。ホストに死なれて気の毒だ。潰してみると血がでてきた。コウモリ死んでまで血を吸っていたらし

口まわりアップ

足の先アップ
顕微鏡で顔をUPして見ると,まさに獣の顔ダ。ヒゲもあるゾ。
やはり噂どうり耳デカ
目がどこにあるのか解らなかったが,よく見ると数本長毛密集の眉毛が!その下を探してシワっぽいところを開くと・・・アッタ目だ!ちっちゃいー。
歯も鋭い!ツルツルピカピカ,牙だってある。
目立った外傷は見られないが,口の中に土が入っている。口から落下?
胸の筋肉がすごく発達している。

コウモリ騒ぎのその続き

 観察途中からH君も納得したのか持ち場を離れて,子供同士遊び始めた。やれやれ,お墓のことは忘れてくれたようだ。
 次の日,幼稚園のお母さん達や子供に会うと声を掛けられた。
「あのコウモリどうなったの?」「おばちゃん,お墓作った?」
 気持ち悪い存在だったコウモリ,間近で見たとたん一躍人気者。その先は詳しくは語るまい。埋めていないことは確かだ。

 コウモリ騒ぎも一段落ーと思った4月2日のことである。
「もしもし小橋さん,またコウモリ落ちてたんよー」
またまたIさんから電話だ。
「えーまた? きっとIさんち,屋根裏あたりがねぐらになってるよ!」
「今度のコウモリはまだ息していて・・・瀕死かな。今まだ長女が脈とってる。」
 長女は無類の動物好きという話。コウモリの看病(?)をしてくれることになった。Iさんの何でも飼う体験型の姿勢がこうを発している。それがゆえにIさんのお宅は,ああまでに色々な生き物で盛り上がっていて大切に飼われている。
「もしも元気になったら放すとして,このコウモリが死んだら?」
「彼女の気持ちを大切にしてあげて。お墓を作るといったら埋めてね」
「アルミ箔を下に引こうか? 今度は骨? しばらくして後で掘りに来る?」
 笑いながら電話で話すIさん,本気か冗談か・・・ちょっと気になるところだ。

      


 このあと続く”Iさんちのコウモリ日記”
「読者からのスゴイお話」第6集その5に登場です!
中一の長女さんが丁寧に書いて下さいました。
左の表紙をクリックしてみてくださいね。
 
 
 
 


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