オ ト シ ブ ミ  揺 り か ご

(平成14年 2月3日UP)


平成13年6月1日。
初夏の陽気に誘われて,小橋家は爽やかな渓流沿いに来ている。
お昼ご飯を食べたり石投げをしたり,ゴロゴロ居眠りをしたり草むらのヘビに驚いたり,それぞれが思い思いに過ごすのだ。そのヘビに驚いた当の私は,対岸に揺れる白い花を見つけた。
「ちょっと行って来る」
主人のぶかぶかの長靴を拝借。水が長靴に入るギリギリの場所をヨタヨタ探しながら,ちょっとそこまでお花見に・・・と川を横切った。

ちらちら木漏れ日が当たり,花は輝き光に透けた葉もすがすがしい。
このブラブラの可憐な花はエゴノキ。秋になるとブラブラの実も可愛い。
が,ちょっと違うブラブラ発見。
ところどころに実でも花でもないブラブラがいくつも見えた。

ブラブラ,けっこう沢山あるぞ〜!
なんだろう。
ゴミかな,蓑虫かな。それとも鳥の糞? 
ん・・・もしや虫コブってことも? ふふふ・・・。
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枝を引き寄せ間近で見てみた。
すると・・・くるっと葉巻みたいな筒があった。
「おおー,これはオトシブミの揺りかご!」
クルクルそしてキチンと折り畳まれてるその造形は,なんて綺麗なのだろう!

オトシブミは1センチにも満たないとっても小さな甲虫だ。
ゾウムシの仲間で,20種以上の種類がいる。
オトシブミの仲間は,頭もテカテカで体に比率して妙に小さいので,どことなくユーモラスな感じがする。
顎で葉をちょきちょき切断した後に,折り紙をするがごとく山折り,そして巻き巻きして,その途中で中心に卵を産む。最後までくるくるっとした巻物のなかでは卵が孵り葉を食べて育ち,そして蛹になり成虫になって出てくる。
オトシブミの巻物は外界の敵や環境の変化から遮断された,いわばスーパー育児室なのだ。

この巻物の形も種によって決まっている。
葉脈でぶら下がって揺りかご状態のものもあれば,葉の端っこへ揺りかごを作るものあり,さらにぐちゃぐちゃっと綴じておしまいものまである。そして,名前の由来のように,巻物を仕上げにスッパリ切断して,地面に落下させる「落とし文」状態のものもある。
絵に書いたのはほんの一例,まさに多様な形の揺りかご,オトシブミである
このエゴノキでみつけたのは,ハギツルクビオトシブミに似ているが,「そうだ!」といいきれないのがシロウトの悔しいところだ。

なるほどー,これがオトシブミのゆりかごか・・・,
じろじろながめている視界のはしっこに,クネッと折れ曲がる葉が目に入った。
ときどきふわっと不自然に揺れている。
枝を引き寄せてみると,小っちゃな黒い虫が端っこにぶら下がるようにしているではないか。
ややや,これはこれは! オトシブミとの初めての対面だ!

葉っぱを忙しそうにウロウロ落ちつきがない。
見ていると,葉っぱを咬んだり足を器用に動かしていたりと,揺りかごをちょうど作成しているところだった。
ヤッター,なんて運がいいんだろう。
しばらくオトシブミのお仕事ぶりを拝見といきますか。


2:01谷折りした後巻きはじめ 2:01足や口を使ってクルクル 2:06出来具合の決め手はここ



2.08 半分巻けたかな 2:09 微妙にずれが出来るとー 2:10 口で折り目を調整!



2:12 ここの留め方は芸術的 2:12 ここまでくると一安心 2:12 出来た出来た,完成!

言い訳するようだが,撮影しようにも,大きさほんの5ミリ強の虫なのだ。
そして,私は水の中の石の上に立っている。
しかも手持ちカメラの上に,川沿いは風も強く枝をさわさわ揺らす。
最悪の撮影現場だ。いつもぼけぼけ気味なのに,さらに輪を掛けてぼけぼけだ。
全身から助けてオーラを発していたらしく,気が付いたら夫がぴょんぴょん飛び石でやってきた。
枝が揺れないように持ってくれる。感謝ー!
が・・・出来はそう変わらないな。やっぱり腕だということか。

さて,オトシブミ母さんはマキマキし終わるとフワ〜っと飛んでいった。
大仕事ご苦労様!といってやりたい。
考えてみると,人に換算すれば100坪ぐらいの広さの紙を折り紙をしているようなもの。重労働である。虫のパワーってすごいなぁと改めて思った。

仕事キッチリ これでイイや
おやおや・・・? 
あちこちに出来た巻物を見ているうちに,巻き方が実にバラエティに富んでいるのに気が付いた。
定規で測ったようにきっちり丁寧な揺りかごもあれば,とりあえず巻ければいいだろうという感じの乱雑ゆるゆる揺りかごあり,じつに個性だ。

そういえば同じヒトでも,主人のように手先が器用タイプと,そして私のようにいい加減タイプがあるもんなぁ。
すごく親近感が湧いてしまった。

葉っぱが不味そう?
茶色に変色しているものもあった。
これは幼虫の気持ちになってみれば,見るからにまずそうである。
しかし実にうまくできていて,この葉っぱの揺りかごが枯れるまでの約3週間のうちに成虫になって出てくるという。
うまくできているものだ。

この揺りかごを作るのはお母さんだけと聞いていた。
じゃ雄はどうしているのだろう・・・不思議に思って調べてみた。
するというと巻き巻きの現場に一緒にくっ付いていることが多いということだ。
あら,暖かい声援を送っているかな,それとも,もっときつく畳んでとか現場監督をしているのかな。と思ったら,お母さんが他のオトシブミの雄にナンパされないように,常に見張っているのたそうだ!
これも,自分の遺伝子を残す知恵なんだぁー。

オトシブミづくと,申し合わせたかのように家に帰ってもオトシブミが続くのが不思議だ。
次男が持って帰った配本絵本がファーブル昆虫記の「おとしぶみ」,そして長男は国語の宿題で,教科書の「おとしぶみ」の音読をしている。
こうなると,長男が布団を畳んでいるとオトシブミに見えるし,朝パンにハムを挟んで2つ折りにするとオトシブミの姿がちらつく。
挙げ句の果てには「おとしもの」までピクッと反応してしまう。

オトシブミづく日々はこのようにして過ぎていった。
オトシブミの幻影が私から消えた頃,渓流沿いのオトシブミは揺りかごから無事に飛び立っただろうか。
次の初夏には,またブラブラの揺りかご見物に行こうと思う。
今度はちょっと巻物の中の様子も覗いてみたいし,展開図を参考に葉っぱマキマキの再現もしてみたい。
その時までに接写の腕を磨いておかなければいけないなぁ〜と思う今日この頃である。


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