フン 「あっ,母さん,ウンコがあるよ!」 長男の大声が山々にこだまする。 うーん,それはいい物見つけたデカしたぞ! 声を頼りに坂を駆け上がると,おおお,大きさも形もドングリそっくり,黒々テカテカがパラパラっと散乱している。 「わあ,よく見つけたねー!」 親の背中を見てちゃんと育っているようで少し嬉しい。 大体,本を読んでいても実際と微妙に違って悩むことも多いのだが,今回の見つけもの糞は教科書通り,なんて分かりやすいのかしらん! シカの糞,まだ表面がねっとりしていて日を浴びてテカテカ光っている。フレッシュ感あふれていて,どうやら昨晩〜今朝にかけての落とし物だろう。 「このウンコ,緑っぽいよ」 次男の観察眼もナーイスです。私たちって結構フン通家族かもー。 「緑の葉っぱ食べたのかな?」 この新鮮な状態の緑の糞,乾燥させると黒っぽく変色してしまった。
タヌキやアナグマは,溜め糞といってちゃんと決まった場所に糞を山盛りする。シカの場合は,どこでもOK,歩く先々でできる。ウサギなど草食動物同様,排便中と言えども敵にスキを与えない草食の知恵の1つという。この場所もちょうど獣道の真ん中に堂々とある。踏んだらどうしようなんて下を気にするのは,人間だけだろう。 さて,回収段階でちょっとした不安がよぎった。このフレッシュ状態,ナイロンだと帰る前に煎餅なのでは。困ったな。 「持っとるよ」 おお,いつもながら用意のいい主人はフィルムケースを差し出してくれた。しかしホッ・・・っとするのはつかの間だった。兄弟平等,喧嘩になるので仲良くフィルムケースを一つずつ持たせて入れさせる。どうやって入れるのかな? 2人,枝を見つけてうまく入れている。そうそう,糞は手で触ったらダメです。 ここまでは合格点。 ところが,兄,フィルムケースをぶんぶん振り回し,かちゃかちゃ音を楽しんでいるではないか。 「やめてー潰れるー,ちゃんとポッケに入れてて」 その時 「わあーっ」 叫び声共に後ろで次男がこけている。起きあがると同時にじっとフィルムケースを眺めて小声で呟いているのが聞こえた。 「・・・シカの糞がこぼれた」 ひえー,フィルムケースに残り4粒ほど。 「普通,蓋をしっかり閉めるでしょ〜」 あーあ,子ども連れは波瀾万丈である。 What? ところが,七転び八起きというが,フンがばらまかれたことが幸いする。 あーあと引き返してフンを拾い直して,顔を上げたときに,ふと目の前の木が目に入った。 気の表面が削れ気味,その2カ所が深い新しそうな色の傷跡が2本。 おおおーこれは! 鹿が角を研いだときの傷跡ではないか!? ちょっと状況を見回してみよう。 1.ヤブを身をかがめて行き着いたような場所である。 2.最近人が通った形跡がない。 3.すぐ側にシカの足跡&フン 4.ちょうど高さ的に角を擦りやすい場所 5.その上辺りにも擦ったような型がある 以上のことから,シカの角痕のように見えるかも?・・・・という程度にしか私には解らない。 詳しい方がみていらっしゃったらアドバイスが欲しいところである。 ぬたば(らしい?) 秋の発情期の時期になると,雄ジカは泥の中をゴロゴロ転げ回る。この泥浴びの場所を「ぬた場」という。ここを訪れたのは冬,藪から出たちょこっと広いところにアレ?っという場所があった。 表面の草が生えていなく,ネットリとした泥がむき出し,しかも,まわりよりは少し掘れ気味になって怪しい。しかも,シカの足跡が現役で通っている獣沿いに位置する。 もしかすると,これがぬた場? 向こうに見えるのは1L牛乳パックの口の部分。実は足跡石膏型どり中の風景である。 おお,いい具合にスケールになっててラッキー。ぬた場らしい場所の大きさが解るのが嬉しい。 食痕 さて,シカの痕跡として,食痕(食べた後)を紹介しておこう。 このときの食痕ではないのだが,後日4月28日に西粟倉村に見つけたものある。
見回すと,せっかくの植えた沢山の苗木がポッキリ&ガリガリされている。ひもじい冬を過ごすシカにしたら棚からボタモチ,植えた方の心境を思うとガックリ・・・。 やっぱり「わーい,シカだ〜」と大騒ぎできないなぁ〜と実感する。
さて,話は戻って2月25日の続きである。 お弁当でお腹満ぷく,時間は充分経ったし,さぁ,ワクワクの瞬間,石膏セットの引き上げだ。 石膏セットと共に2年ちょっと,石の上の3年には適わないが,微弱ながらも経験的に,今回はナイスな手応えがする。うわ〜,頭で描いたとおりのシカ足跡バッチリだ! 「いやー,父さんのリュック,お弁当なくなると軽くてイイよね〜。私も石膏半分つかっちゃったから,軽くなったよ〜! ふふふっ」 「よく考えてみぃ,出来上がった足跡石膏は誰が持つ?」 うー,しまった。それは私です・・・ やっぱり行きも帰りも重い荷物が肩に食い込むのであった。 帰路に就く。クネクネ道がクネ道になったあたり,観光案内の看板があった。そこにはここで見られる動物たちを紹介する絵が描いてあった。 イノシシ・テン・ウサギ・タヌキ・キツネ あれれ? シカってないの? ちょっと動物の絵が色あせ気味なところから,この看板はずいぶん前に作られたとみられる。製作当時,シカはあまり目立たぬ存在だったに違いない。
シカに限らず,いろんな形で現れる野生動物と人とのアンバランスな関係である。 ヒトと野生動物との距離って,「わ〜,シカの足跡が発見!」なんていっているうちが花かも知れないな。 それでも,いつかは本物のシカとニアミスを夢見ている私である。
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