ウ ミ ホ タ ル  験  in 真鍋島 
 
「ウミホタルをなー,口に入れてモグモグ噛んで”あーん”てすると口の中が光るんよ」
「ええっ?」
「それに,うまく乾燥させて,乾燥ウミホタルを水に戻すとまた光るんじゃあ」
 主人はそんな突飛な冗談を言わない人なので,本当の事だろうか。
"ホタル"という名の付く生物は数知れず。有名なところではゲンジボタル,ヘイケボタル,ホタルイカ,ツチボタル・・・大体においてピカピカの美しい光り物である。
 一度ご推薦のピカピカのウミホタルを見てみたい。そんな思いが募っている矢先,笠岡諸島の真鍋島でウミホタルのテレビ生中継の話が持ち上がっていた。下見をかねて家族で真鍋島ウミホタル見学としゃれ込むことになった。
明るいときの「三虎」前の浜辺
中央ユラユラ桟橋が今回の舞台

 平成11年8月16日,時刻は夜の8時30分
「いま出とるよー」
 窓越しに呼びに来られたのは今回の舞台となる岡山県笠岡市真鍋島の旅館「三虎」のご主人(以後,三虎さんと呼ぶ)である。食べかけの夕食に後ろ髪を引かれつ,「後で食べます」と言い残してお目当てのウミホタル求めて浜に降りた。 
 波に揺れ動いている桟橋の継ぎ目を3つ位,ピョンピョンピョンと飛び越したところにウミホタルが寄ってきているらしい。足元おぼつかない幼児の手を引いて現場に着くが,どうも波に揺られて安定が悪い。
「落ちたら死ぬよ」「端に行ったらダメ」「ほらほらしっかり立って!」
絶えず脅しと注意を織りまぜなくてはやんちゃな兄弟,何をするかわっかったもんじゃない。
 暗闇に目が慣れるのには時間がかかる。

辺りの形が暗闇に浮かんできた頃,フワーと青白い光が海の下から光りながら上がってきて,海面近くでハッキリと光る様子がよく見える。その光は残像っぽい軌跡を描く。
「アレですか? ウミホタル。 はー,なるほどキレイ!」
 初めて見るウミホタルの発色は虫の蛍の色とはちょっと違う。ホタルは少し黄がかった光だが,海蛍のそれは青みがかった白,言うならば”青系の火の玉色”(実際には見たわけではない)が一番近いように思える。
 その光の移動の仕方だが,いわば夜に写真を撮ろうと思ったらシャッタースピードが遅くてブレてしまい,街灯が筋になって写ってしまった写真のように,ウミホタルが泳いだ軌跡が漂っている。

「今さっき,エサを撒いたから・・・」
「エサ? 何やるんですか?」
「魚のアラじゃあ,自然のものは自然に帰す!」
 三虎さんのお話を聞きながら,旅館に張ってあったウミホタルの説明を思い出す。
貼ってあった説明書の一部。
操山高校生物部が書いたものを「三虎」に寄贈。
 ウミホタルの正体は仲間分けでは節足動物甲殻類。陸生のホタルよりもむしろエビやカニの幼生に近い。ミジンコを思い浮かべるとよく感じがつかめる。昼は砂に潜っていて,夜になると海にさまよい出て魚の死がいなどを食べている。大事な海の食物連鎖の底辺あたり,植物プランクトンの次に位置する。

 それにしても桟橋がよく揺れる。
「ウミホタルをじーっと見てるとなー,(波で揺られて)気分が悪くなるじゃろう? ゲーッて吐いたらまたそれにウミホタルが寄って来るんじゃあ」
「ヒャー!」
またまた冗談をと思いつつ,この揺れ方を思えば実際にあったことかも知れぬ。
「じゃあ,人間の体にアラなんかなすくって,ボチャンと海に入ればウミホタルが寄ってきて,ぴかぴか光るんじゃないです?」
「・・・・・うーん・・・」
三虎さんを困らせてしまった。
ウミホタルだけなら”キレイだわー”ですむが,大きなお魚によってたかられると大変だ。

「母さん,おしっこ・・・」
こんな肝心なときに限って子供は催してしまう。
「もう仕方がないから,うーん,こっちの海にしなさい。」
揺れる桟橋から落ちないようにしっかり抱き抱えてオシッコさせていると・・・アレレ? 何だか波間がチカチカしている。何だかキレイ! オシッコのしぶき中心にピカピカしているではないか! おお,夜光虫だ。まさかのまさか,オシッコで夜光虫が反応するとは思いも寄らなかった。
 ここで,ウミホタルと夜光虫の光り方は大きな違いがあるとは聞いていたが,実際に目の前にすると納得する。ウミホタルはフワーン,夜光虫はチカチカだ。

「雌も雄も光るんじゃけど,上の方まで登ってくるのは雄。水面の辺でクルクルッっと回るんじゃ」
 ウミホタルのこの動きは求愛行動に依存しているらしい。
「水中でな,急に光ることがあるんじゃけど,見てみると魚がつついとった。」
「なるほど,光ってビックリさせている隙に逃げてしまう作戦ですね」
 このウミホタルの光は,ウミホタル自身が輝いているのではない。光る元になる物質(ルシフェリン)を出して,体外で光が生まれるのである。
 後に調べてみると,驚くことにこのウミホタルの光を利用して,自分が発光する魚がいると言うことだ。学研の「水の中の動物 ワイドV」によると,キンメモドキやイトヒキテンジクダイ,ツマグロイシモチなどは,魚自身に発光する力がないので,発光甲殻類のウミホタルを食べてルシフェリンを蓄え発光すると書いてある。
 驚くべき知恵,ちゃんとウミホタルの発光素を蓄える器官まで持っている魚がいるという。

「ウミホタル,どんなんか見てみたーい」
そんな長男に三虎さんはウミホタルを指先に乗せてくれた。懐中電灯用意。いよいよ実際にウミホタルとご対面だ。
 思いのほか小さな数ミリ単位の小さな粒,ミジンコサイズ。しかも見た目には今流行のスケルトン!! こんな小さな体内に,どうしてあんな美しい光を出すパワーがあるのだろうか。
「熱くない?」
と心配そうな次男。
「父さん,カメラカメラ,撮って撮って!!」
 借り物のデジカメも,一眼レフも暗闇撮影の設定が何かあるのか,全然言うことを聞いてくれない。神秘的な光はなかなか手に入れられないものである。

 『これからテラスでウミホタルの実験をするので集まって下さい』
そんなアナウンスが流れたのはようやく途中の夕飯を食べてくつろぎ,花火を半分したころ。

 ウミホタルのトラップを引き上げて旅館のお兄さんが持ってきていた。
「トラップに何が入っているんですか? やっぱり魚のアラ?」
「いえ,今回はイカのアラです。」
ガーゼに包んでおかないと,ウミホタルがエサに食い込んで離れないらしい。
トラップに集まったウミホタル入り海水を一気にバケツに注ぐ。
「わーっ」
歓声がわき起こる。
ビックリしたウミホタルが一気に発光物質を出して,暗闇でバケツの水が蛍光塗料のように光っている。
 ガーゼに残っているウミホタルを指につけ,主人がモグモグ・・・あーん。
「本当だー,舌が,口の中が光ってるー,おもしろーい!」
コレが見たかった。まるで,ブラックライト紙芝居を見ているようだ。
 うちの長男は調子に乗りやすい。
”じゃあ僕も”とばかりにウミホタルを手に付けてピカピカすると,何を思ったか,毛髪から顔から口からTシャツから足から,靴の裏に至るまで,ウミホタルを塗りたくり,全身ウミホタルをやっているではないか!
 光る光る,ウミホタルを擦って発光物質を出させるとますます光るのである。さすがの突飛な全身ウミホタル行動に後に続く子供は出てこなかった。
「昔,第2次大戦中にこの光を軍隊で応用できないかとウミホタル集めて実験した歴史もあるんだって・・・」
 主人が教えてくれた。

 ウミホタルもフワフワ,夜光虫はチカチカ,花火はシューシュー,満天の星もピカピカ,遠くの夜景もユラユラ・・・
 美しく瞬く数々の神秘的な光に夢中になるうちに,いつの間にか気づかぬうちに三日月は「三虎」に沈んでいた。

 さて,次の日の帰りの船の中,大切な事を思い出す。
「あっ,しまった! 乾燥ウミホタル,忘れてた!」
こりゃあ大変だ。水に戻してフワーが出来ない!
眠い頭を巡らして,考えに考えた結論はこうだった。
「そうだ! 長男の服! 全身ウミホタルしたんだから昨日のTシャツに張り付いてるハズよ。」
クサイだなんて言ってられない。
家に帰って,最後の望みをかけて独特の磯と汗の入り交じった臭いのするTシャツを掘り出す。相手はミジンコサイズ,顔を最大限に近づけての格闘だ。
「コレ?? よくわからないけど,取りあえず怪しいものはフィルムケースに!」
恐る恐る双眼実体顕微鏡で覗く。緊張の一瞬である。
「・・・・」
 果たして見えたのは,ゴミ数点とそしてウミホタルの潰れた残骸たった1匹。
 観音開きになっていた彼は,とうてい水に戻してフワーンが出来る相手ではなかったのであった。




「三虎」の近くで見つけたクラゲ
今回,ウミホタル観察でお世話になりました
「三虎」のご主人久一博信さん,
どうもありがとうございました。 

 なお,真鍋島旅館「三虎」のHPアドレスは
  http://www.oka.urban.ne.jp/home/suntora/

今なら小橋家が撮影に失敗した
"お口モグモグあーん"の写真も見られます。
皆様,是非お立ち寄り下さい。
 

 
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