主人の可愛い見つけもの 主人は,休日の暇な時間を見計らってよく庭に出ている。植木の枝をパチパチ切って,楽しそうにお手入れしているようだ。 「あの木にミカン色のぶよぶよキノコがあるけど」 「ビワの葉にトックリバチの巣があって・・・」 「あのトロ箱,どうにかしたら?ボウフラがいっぱい湧いとるで!」 私の気がつかない色んな情報を教えてくれる,ありがたい小橋家お庭特派員だ。 そんな7月1日の夕方,特派員から情報をキャッチした。 「フジの葉の上に,ツノがある蛹があるの知っとった?」 「え・・・どんなの?」 手で作る形は可愛いお饅頭のようだ。 翌朝,明るくなって指定された葉を見に行ってみた。すると,ウワサ通りの形をした,小橋家のお庭初登場の虫の姿があった。 まるで開運ウサギのお置物みたいだ。 「かわいい〜〜っ」と思わず声が出てしまう。下の葉が白色に光って敷物みたいにみえる。 しばらく見てみるが微動だにしない。 「蛹なのかなぁ?」 糸を吐いた足場の上にジッとしているところを見ると蝶か蛾の蛹なのかな? 「葉をむしられないようにしなくっちゃ」 小橋家の住人も色々だ。 芋虫毛虫は害虫として処理されることも少なくない。 どこかの図鑑で見たような・・・記憶を頼りに次々と図鑑をめくってみると,似たような体型の虫が出ていた。ウラギンシジミの幼虫時代の姿・大きさに似ている。フジの木にいるということで,幼虫の食性もバッチリマッチする。 ところが,ウラギンシジミは森林性の蝶らしい。森林とは縁がない倉敷郊外の我が家では見かけない顔である。謎は深まるばかりだ。
さらに本を読んでみると,ウラギンシジミの幼虫は警戒すると,2本のツノの先からビロビロっとした毛の束を出してサッと引っ込めるらしい。 わぁー,なんて楽しい光景だろう! それならば,ちょっと突っついてビロビロ・サッの毛の束がみてみたい。 早速ちょっと触って見ることにしよう! 芋虫マジック! 消えたツノ 毛の束見たさに現場に駆けつけたのは,前に見てからわずか1時間後 ところが,行って驚いた! まるで別物がそこにいたのだ。 しかも,こんもり縮んでいて,モコモコっとしていた体節あたりがスベスベ滑らかになっている。 ・・・やられたー! さっき見ていたのは終齢幼虫の蛹になる,ほんの直前の状態だったのだ。わずか目を離した隙に,スルスルとお服を脱いで蛹になっていた。 アゲハ幼虫にしろ毛虫にしろ,幼虫の脱皮の瞬間っていつも見逃している。 さらに四方八方から見ていると重要な間違いに気がついた。 頭は・・・どう見ても左。 とすると,さっき眺めてカワイイ〜とか言っていたツノの生えている部分は,お尻だった? 以外や以外,先入観というものって恐ろしい。 ところで,あのブラシ,どこへ行ったのだろう,ツノはどうなったんだろう? お尻を眺めていても,ツノが引っ込んだ形跡はない。ということは,蛹への脱皮の皮の方へ引っ付いていると見るのが妥当である。 がーん,お尻には脱皮の皮は引っ付いていないし,山積みの枯葉の上に落ちたに違いない。根性入れてしばし地面を捜索したが,到底探し出せる代物ではなかった。 さなぎマジック!浮き出る模様 さらに数時間経過,お昼過ぎのちょっと休憩庭巡り。蛹を覗きに行くと葉の色とそっくりになっていた。まやかされて遠くから見ても解らない。カモフラージュしていて,うまいものだ。 ところがである。マジックはこれだけじゃなかった。 近づいてみると・・・ なんと,背中にさっきまではなかった,クッキリハッキリ,スペードのマークがあるではないか! しかも, その浮き出た模様はラメ入りのように輝くゴールド! いやはや,ビックリ仰天だ。 自然の中には,人に馴染みのある形がみつかる。○×△□,ハートにくるくる,と様々だ。ところが,こんなスペードマークは見たことない。 こんな光る綺麗な模様は,何のためなのだろうか? 私の今までに庭で見た蛹では,ヒメアカタテハの蛹にメタリックな突起がいくつも付いていて,金属色に光って綺麗だな〜と感心したことがあった。 一体何のためか謎は深まるばかりである。 あれから毎日通るたびに見ているが,少しずつ蛹の色つや・点々の具合が変わっているような気がする。
ウラギンシジミだったら雄が出るか雌が出るか? 明日かな?明後日かな?一週間後かな? 蛹から羽化するときには,どこがメリメリっとわれるのだろう? スペードマークは,抜け殻になっても光り輝いているのかな? いくらでも気になることがある。 何とか羽化を見たいものであるが・・・経験から言うとたぶん見逃すだろうー。 たがが庭,されど庭ー 日々発見の連続で驚きは尽きない。 ボウフラも湧けば蜂も出る。毛虫も葉を囓れば蝶も卵を産む。刻一刻と季節を刻む庭,猫の額ぐらいでも,そこは生き物パラダイス! この蛹の後日談,胸を張って語ることができればいいのだが・・・私にはその保証ができないのが残念である。
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