水無月(みなづき)

6月と10月は、普段は静かな里山が最も活気づく月である

田植え時期、育苗箱を満載した軽トラが忙しそうに行きかい、トラクターも負けじと疾走する

大型トラクターが走る様は迫力満点、圧倒的な存在感がある。ちょっと遅いのが難点ではあるが・・

主役の田植え機は、結構軽やかに走る。年に一度、満を持しての出番である

5月22日に「もみまき」をしたSさんちの苗は、順調に生育し、月末にはトンネルを外した

トンネルの中で芽を出し、育まれていた苗は、やっと陽の光を浴びることになった

田植えまで待機、もう少ししっかりした苗に育ってから田んぼに移される

    


Sさんちのトラクター、運転席が部屋になってる最新型で、大きい(立山熊太郎よりは小さいが)

馬力が大きいのはもちろんだが、今どきのトラクターの装備はすごい!!

エアコン付きで真夏でも楽々お仕事、狭いので冷房が効きすぎて足元が冷えるとか(贅沢な)

炎天下、上から下からあぶられて、汗まみれで仕事していた頃に比べると

『何ということでしょう~』

オーディオも取り付けてある、BGMが流れる快適な職場環境だ

「そのうち、カラオケもつけるんじゃないか」とは、ウチのダンナの弁

近い将来、右手にハンドル、左手にマイクのS氏を見ることができるかも

「代かき」もコンピュータ制御でやれるそうだ。田んぼにでこぼこがあっても

トラクター自身が後ろの羽を上下して、むらなく平らにしていくそうだ

牛を使って百姓仕事をしていた昔を思うと、雲泥の差、当時の人が見たら腰を抜かすかも

今や農業は、高度に機械化しているような感がある

Sさん曰く、「機械のことが分からんと、農業はできん」(なるほど)

で、モットーは、「百姓は、楽しゅう~ やらにゃあ~ イケン」(なっとく)

さて、この先、〈百姓仕事を楽しむために〉どんなビックリ機械が登場するのだろう。楽しみである

 
32馬力のトラクター、ダイヤル一つで深耕も浅耕もオート化

 
オーディオ・エアコン付き、カラオケセットはどこに付けましょうかねえ


溝掃除が終わり、水路がきれいになると、6月の初旬には池の樋(ひ)が抜かれる

水路には水が勢い良くドードーと流れ、田植えの準備が始まる

田んぼに水を引き入れ、代かきをし、田んぼの表面をならしていくのだが

その前に、取水口や出水口の点検・修理、畔の草刈り・補修などの仕事がある

溜まった水が漏れないように畔シートも入れておかなければいけない

畔シートは、モグラに穴をあけられないように作土層の下までしっかり入れておく

浅いとモグラが穴を掘って、せっかく溜めた水が抜けてしまうからだ

機械化できない作業もまだまだたくさん有り、米作りの大変さが分かる

 

水が溜まると、トラクターで代掻きをする

できるだけ平らになるよう後ろの爪を調節しながらやるのだが

最新型のトラクターではコンピュータ制御で自動化している

  

トラクターがターンする時に、凹凸ができるが、何度も往復しながらならしていく


代掻きから4日目、田んぼの土が程よくしまったところで苗を植える

苗代の苗は、成長すると、育苗箱を突き抜けて根を張るので

苗代から箱をはがすにはかなりの力がいる。続けてやっていると腰も手も痛くなる

が、Sさんちには便利な道具があって、苗箱はがしも省力化している

 
L字型になったスティックを箱に差入れ、てこの原理で箱をはがす

昔は手ではがしていたので大変だったが、これだと効率的だ

はがした育苗箱を田植え機に積み込み、さあ出発だ

田植え機には1度に12箱分の苗が積めるが、これはほぼ1反(10アール)分の苗である

 

田植え機には、肥料と除草剤を散布する装置が取り付けられていて

苗を植えながら同時に肥料と除草剤が散布できる

小人数で広い田んぼを管理するには、やはり時間も人手も短縮する必要がある

 
田植え機の後ろに取り付けられている「こまきちゃん」は除草剤の散布機(写真左)
田植え機の上部の四つの青い箱は肥料入れ
ここからホースで下に誘導し、苗の根元に散布する(写真右)


この日、田植えをしたのは「オオグロ」と呼ばれている田んぼで

Sさんはこの田んぼで「おいしい米コンテスト」に出すお米を作ることにしている

「オオグロ」は約3反の田んぼで、植える品種は「ヒノヒカリ」

このあたりでは比較的ポピュラーな品種である

《秋にはおいしいお米ができますように、品評会で一等賞が取れますように》

私も秋の収穫まで、ここの稲を見守っていこうと思っている


田植え機は四条植え、一度に四列苗が植えられる

苗植えと同時に肥料と除草剤の散布、一度に三役をこなす

肥料は一発肥えで、成長が順調ならば、追肥はしない

 
エンジン音も軽やかに見る見るうちに苗が植わっていく


田植え後しばらくは、田んぼには水を十分入れておく

除草剤を水に溶かして、最大限に薬の効き目を発揮してもらうためだ

が、最近、この時期に厄介な生き物が出没するようになった

『ジャンボタニシ』だ。やわらかい早苗を食い荒らす

ここ4,5年、農家はジャンボタニシの被害に頭を痛めている

ひどい所では、苗が食われて植え直しをしなければならない程になる

ジャンボタニシは水たまりで生息するから、苗を植えたばかりのこの時期が一番《要注意》

田植えから2,3週間は、「水ははりたし、タニシは怖し」である

苗が成長して茎がしっかりしてくると、タニシに食われることもなくなり、一安心となる

厄介なタニシ、ものすごい繁殖力で、あっという間に拡散していった

水系が同じだと、上流から下流へ、上の田んぼから下の田んぼへ

水の流れに乗って、野火のように広がっていく

退治する薬もなく、唯一、冬の間に土を掘り起こし(土の中で冬眠している)

寒気にさらして殺すか、殻を傷つけて殺すかしかない

 
ジャンボタニシと水路壁に産み付けられた卵。不気味なピンク色

 
タニシに食われて苗が少なくなった田んぼ。苗に産み付けられた卵


「オオグロ」はタニシの被害もなく、稲は順調に育ている

苗も除草剤も定着したので、いま、水を落としている状態

これから先は、水管理と畔の草刈り。暑い中での地道な作業が続く

特に、水の管理は、食味や収量に影響するので、気を付けなければいけない


「オオグロ」では、「おいしい米コンテスト」に出品する米を作っている

Sさんに、「おいしいお米」を作るポイントを聞いてみた

「おいしいお米」作りは、ズバリ「肥料のやり方」がカギだそうだ

収穫期ギリギリまで肥えをやると、収量は上がるが

糖質よりたんぱく質が増えて、おいしい米にならない(甘味が少なくなる)そうだ

適度なところで肥えを控え、糖質を増やしていくのが肝心なところ

天候にも左右されるし、この見極めが難しいそうだ

水も肥料も、やりすぎても不足しても、いい米はできない

自然が相手の仕事なので、当たり前のことだが、教科書通りにはいかない

その時々の天気・稲の生育状態を見ながらの、賭けみたいな仕事だと思った