空 (’00/10/4)




遊の目には蒼が映っていた。吸い込まれるような蒼だった。それは視界を埋めていた。時折、そよぐ風が心地よかった。遊が見ていたものは空だった。

「ここから、見上げる空は変わらないな。」
遊が、そうつぶやいたとき、横の少女は小さく頷いた。
「この空のようなら、いいね。」
その言葉に、少女は小首をかしげ不思議そうな表情をしながら、遊に問い返した。
「遊、どんなふうに?」
「わからないかな?万里。」
遊は優しく答える。少女は万里という名だった。2人は小高い丘の上にある公園の芝生の上に寝そべっていた。昨日までのテスト期間を終え、久しぶりに2人で過ごす時間だった。
「ここへ来て、もう1年ぐらいになるね。万里に会ったのも、その頃だったよね。俺、あの時不安だったんだよ。」
「あの時の、遊って何か人を寄せつけない雰囲気だったもんね。」
「怖かったんだ。人と繋がっていくことが・・・。」
「今は?」と、万里は問いながら、遊の瞳を覗き込んだ。
「今もあんまり変わらないよ。ただ万里がいてくれるから・・・。人との繋がりもちょっとなれたけど・・・。」
遊は照れながら、微笑んでかえした。
「ねぇ、万里は、あの時なんで俺に話しかけてきたの?」
「遊がね、強がってるように見えたからよ。本当は優しいくせに、人を傷つけるのが怖くて自分から避けてるのが、何となくわかったから・・・。」
「万里には、かなわないな。」
遊は、物心をついた時には周りには大人しかいなかった。故に、同世代の人との接し方がわからなかった。そんな時に候補生に選抜され同世代の人間と、突然、共同生活となったのだった。

「遊、さっきの空の話は?」
「ああ、あれね。空ってさ、この地上にいる人全てを包み込んでくれるから・・・。誰とも等しく繋がっているから・・・。」
「いつか、そうなれるといいね。」

空は、いつまでも蒼く澄んでいた───。
時折、そよぐ風が心地よかった───。