ハッピーバースディ・・・・・命輝くとき・・・・・
登場人物(18人)
藤原明日香(前半・後半 )       晶子
藤原静代(明日香の母)        良美
藤原直人(明日香の兄)        茂
藤原雅美(明日香の姉)        祐二
おじいちゃん               真知子
おばあちゃん               大介
橋本先生                宏
順子の父                光夫
(ナレーションはほかの役とかねる)  順子

あらすじ 
 「あなたなんて生まなきゃよかった。」誕生日に言われたママの一言から、声が出なくなった明日香。
でも自然に囲まれたいなかで、じいちゃん、婆ちゃんの愛にふれ、明日香は心と声を取り戻します。
そしてそこには、明日香を愛せないママの秘密が・・・・。生きる喜びを知った少女が学校でのいじめに立ち向かい、
家族を変えていくまでの、感動の物語です。
プロローグ
ナレーション (呼びかけ風に、全員で分けて読む)
        今日は、
        明日香の十一回目の誕生日
        いつもは、優等生のお兄ちゃんとお姉ちゃんに比べられ、
        ドジでのろまで、ママにしかられてばかりだけど、
        この日だけは、きっと違う。
        明日香の心がほっとする日。
        「おめでとう」って、みんなが言ってくれるはず。
        だって・・・・
        明日香が生まれてきた、大切な日だから。
        明日香が、明日香になった記念日だから・・・・・。
第一場 学校の帰り道
     明日香や大介達が舞台袖から走り込んでくる。
明日香     私のかばんを返して!
大介      藤原のかばんにもバイキンがついてるぞ。
光夫      きったねぇ。
順子      もう、やめて・・・・。
宏       お、バイキンが口をきいたぞ。
大介      返してやるよ。ほーら。
光夫     (かばんを投げる)<水に落ちる音>
宏       やばいよ。誰かきたぞ。<3人去る>
     明日香はカバンを拾い上げる
順子      (泣きながら)ごめんね。私のせいで・・・・。
明日香     悪いのは小林君達だよ。気にしないで、順子ちゃん。
順子      明日香ちゃん、もう私と仲良くしない方がいいよ・・・。
     順子はくるりと背を向けて走っていき、あとを追う明日香。
第二場 明日香の家   
      一方ここは明日香の家。ママが家にいる。明日香が帰ってくる。
ママ      明日香!このカバンはいったいどういうことなの?ちゃんと説明しな
        さい!!
     明日香はうつむいたまま・・・。
ママ      ほんとにだめな子ね。少しはお兄ちゃんやお姉ちゃんを見習いなさい。
        あなたぐらいの時は直人も雅美ももっとしっかりしてたわ。
        明日香はどうしてこんなにドジでいろんなことをさっさとできないのか
        しら。ママはこれから用事で出かけるからね。
明日香     えっ・・・・。
     ママは出かけてしまう。呆然と見送る明日香
     入れ違いに帰ってきた兄と姉が入ってくる。

直人    
 ただいま。
雅美     ・・・あれ?ママは?
明日香    用事があるって。でもすぐに帰ってくるよ。今日は私の誕生日なんだもん。
直人     あきらめな。ママはおまえの誕生日なんて、忘れてるよ。
       パパが出張だから、ママは気がねなく仕事も遊びもできるのさ。
直人     おまえ、生まれて来なきゃ、よかったよな。
明日香    ……。
    (体中が熱くなり思わず持っていた鞄を直人になげつけ、部屋を出る)
直人     うわっ。何すんだよ!
     泣いている明日香
ナレーション  お兄ちゃんなんて大っきらい!
        ママが明日香の誕生日を忘れるはず、ないじゃない。
        …そういいながら泣き続け、
        明日香は泣き疲れてうとうとと眠ってしまいました。
        夜中、明日香は物音でふと目が覚めました。
     廊下で部屋の声を聞く明日香
ママ     (入ってくる。酔っぱらった声)ただいま。あら、雅美ちゃん。まだ起き
        てたの?お勉強?えらいわねぇ。
雅美      やだ。ママ酔ってるのね。(水を持ってくる)はい。
        明日香が泣いてたわよ。今日誕生日だったのに。
ママ      すっかり忘れてたわ。雅美ちゃんや直人君のようにいいこの誕生日は絶
        対忘れないんだけど。明日香はあなた達とは全然違って、なにやらせて
        も愚図でドジで…。いやになっちゃうわ。あーあ。明日香なんてだめな子、
        産まなきゃ良かったな。
ナレーション  明日香なんてだめな子産まなきゃ良かった。
        ママの声は明日香の胸にぐさりと突き刺さりました。
        明日香は息をするのも苦しいぐらいでした。
        『ひどいよ、ママ!!』
        叫んだつもりなのに声になりません。
        悲しすぎて明日香の心は、扉を閉じてしまったのです。
        『声が出ない、助けて!』
        けれど明日香の心の叫びに気付いてくれる人は、
        誰もいませんでした。
        明日香は、声が、出なくなったのです。
     直人と雅美が入ってくる。明日香は小さくなってうずくまっている。
雅美      明日香、声が出なくなったって本当?
     力無くうなづく、明日香。
雅美      (額に手を当てて)どうしたの。こんなに熱も…。
     明日香が口を動かす     
雅美      『う、ま、れ、て、こ、な、きゃ、よ、か、った…』
         そう言ったの?明日香。
     うなずきながらうつむく明日香。
直人 (はっとして)ごめんな、明日香。
     ママが入ってくる
ママ       明日香、あなたわざとやってるんじゃないでしょうね。
     明日香が人形のようにじっとしたままなので、かっとしたママは
     明日香のほほを打つ。
直人       
何でぶつんだよ。明日香は病気だよ。分かんないのママ。
ママ       直人君には関係ないことでしょ。あの子はもうあきらめたわ。直人君と
         雅美ちゃんががんばってくれれば、パパとママは大満足よ。
直人       ざけんなよ!俺も雅美も明日香もペットじゃないんだ。勝手に期待され
         たり、あきらめたりされたら、たまんないよ。
雅美       このままだとダメになる。明日香、じぃちゃんのところに行こう。仙台
         に行って心を休めてこよう。自分を取り戻すの。

第三場 仙台のじいちゃんの家
じいちゃん    おーい。ばあさん。ただいま。
ばあちゃん    お帰り。あら、明日香は?。
じいちゃん    後から来るよ。
ばあちゃん    そう。あの子がきて、もう一ヶ月が経つわ。最近は表情も明るくなった
         し、早く声が聞きたいわねぇ。
じいちゃん    あせらないことだよ。明日香は心を休めて、生きる力を蓄えているんだ
         日照りの田んぼのように、明日香の心は、かわいてたんだろうな。今は
         いろんなもんを入れて、心を耕しているのかもしれん。
ばあちゃん    人間、心がかわいてるとちゃんと生きられないものね。あせらずに、待
         ってやりましょう。
      そこへ帰ってくる明日香
じぃちゃん    おかえり、明日香。ちょっとこっちにおいで。
      じいちゃんの所へ行く明日香。そこには何本かの木がある
ばぁちゃん   (大きな木を見上げて)春野が生まれたとしに植えたから、もう、四十四
         年になるかな。
      明日香は不思議そうにじいちゃんの顔を見上げる
じいちゃん    春野って言うのは、明日香のママのお姉さんだよ。体が弱くて、重い病
         気で、十六歳で死んでしまってね。
ばあちゃん    明日香は、本当に春野に似てるわ。そっくりよ。
じいちゃん    ほら、明日香、これが直人が生まれた時に植えた木。
         それから、これが雅美が生まれたときに植えた木だ。
         そして、これが明日香が生まれたときに植えた木だよ。
      びっくりしながらも、嬉しそうに自分の木にほほを寄せる明日香
ばあちゃん    さあ、明日香。今日は本でも読もうか?明日香のママが使ってた部屋に、
         たくさん本があるから好きなのを読むといいわ。(出ていく)
      明日香は周りをいろいろと見てみる。そこには本棚が
      本を取ろうとすると本棚からノートが一冊。堀静代の名前。
ナレーション   ママの子供の頃のノートだ。
      そっとあける、明日香。
ナレーション(全)お母さんなんか、大っきらい!!!
      びっくりして息をのむ明日香
ナレーション   運動会で一等になったのに、お母さんは病院に行ってしまった。見に来
         るって約束したのに。お母さんのうそつき!
ナレーション   いつだって春野ねぇちゃんのことばかり。私だってつらい。かなしいの。
ナレーション   こっちを向いてよ。
ナレーション   お父さんもお母さんもきらい。甘ったれの春野はもっときらい。
ナレーション   さっさと死んじゃえばいい!
ナレーション   ……でも、、こんなこと思う自分が、一番きらい。
     ゆっくりとノートを閉じ、小さなママの悲しみを抱きしめ泣く、明日香。
明日香      かわいそうなママ……。
     はっと手をのどに当てる明日香。
明日香      声…声が出てる!(大きな声で)おじいちゃん!おばあちゃん!声が出
         た!声が出たよ!
ばあちゃん    明日香。本当に明日香の声だ。良かった良かった。
じいちゃん    よかったな、明日香。いいか、怒るときは思いっきり怒れ。悲しいとき
         は思いっきり泣け。我慢なんかするな。
明日香      うん。
じいちゃん    明日香の思いを大事にするんだぞ。何があってもじいちゃんが受け止め
         てやるからな。
明日香      じいちゃん、ばあちゃん、ありがとう……。(深くうなずく)
第4場明日香の学校の教室
ナレーション   じいちゃんばあちゃんの愛に包まれて、声が出るようになった明日香は
         家に戻り、学校にもまた通えるようになりました。
     ドキドキしながら、そっと教室のドアをあける明日香。教室には友達がいる
晶子       おはよう!明日香。元気になったのね。
良美       良かった。心配してたのよ。
真知子      (迷惑そうなとがった声で)藤原さんが休んでいた間、私が委員会の仕
         事をやってたのよ。
明日香      ごめんね。今日から私がやるから、いろいろと教えてね。
     明日香が明るく言うので、驚いた顔をする真知子
大介       そいつの病気、不登校って言うんだぜ。ずるいよな、学校
         休んで遊んでるんだからさ。
   うつむいてカバンを握りしめる明日香。
宏        順子も絶対不登校だよな。
光夫       病気なんてうそばっかだよな。
大介       来ない奴の机なんか、片づけようぜ。じゃまなばっかし
         だしよ。
宏        おまえら、手伝えよ!ほら!
   順子の机を持ち上げる茂と祐二。慌てて椅子を持つ真知子と礼子。
   他の男子もその周りを取り囲んでいる。みんな大介の言いなりである。

光夫       どこへ運ぼうか。ベランダから下へ落としちゃおうか。
大介       ようし。それがいいな。みんな、ベランダへ運べ!
    明日香が、つかつかと歩み寄り順子の机を奪い返す。
宏        藤原、なにすんだよ!
明日香      こんなことしちゃ、いけないわ。
大介       おまえ、生意気だぞ。
光夫       大介、バイキンが来たぞ。
    順子が教室のドアの所で小さくなっている。
大介       バイキンは学校へ来るなよ。
宏        空気が汚れるだろ。むかつくんだよ。さっさと帰れよ。
光夫       帰れ!(リードしてみんなにも言わせる)帰れ!
    ますます小さくなる順子
明日香      もう、やめなさいよ!少しは順子ちゃんの気持ちを考え
         たらどうなの?
    クラスのみんなはぎょっとして明日香の顔を見る
    大介がこぶしを振り上げて明日香をにらむ。
順子       うわーん。(泣きながら教室を出ていく)
晶子       待って、順子ちゃん。(明日香とともに追いかける)
    走る順子を途中で止める晶子と良美と明日香。
順子       (泣きながら)私ね、学校休んで、毎日、死ぬ方法ばかり考えてた。で
          も、どうやったら死ねるのかいくら考えても分からなかった。
良美        分からなくってよかったよ。そんなこと。
晶子        ごめんね、私、いじめを止める勇気がなかった。
茂         あ、いたいた。どこにいるのか分かんなくって、みんな大騒ぎだよ。
          …藤原さん。すごいな。ぼく、自分が恥ずかしいよ。怖くって、あん
          な風に、大介達に言えなかった。
良美        明日香ちゃん、すごいよ。私も…自分が恥ずかしい。
    橋本先生が現れる。
晶子        橋本先生。
橋本先生      (怒ったように)みんな、どうしたの?何があったのか教えて欲しい
          な。
順子        みんなは悪くありません。私、バイキンと呼ばれていじめられていま
          した。つらかったけどがんばって学校に来たのに……帰れって言わ
          れてもう死のうと思いました。でも明日香ちゃんと晶子ちゃんと良
          美ちゃんがついてきてくれて、死なないでよかったって言ってくれ
          ました。わたしを助けてくれたんです。しからないでください。
橋本先生      そうだったんだ…。順子ちゃん、辛い思いをさせてしまったね。ご
          めんね。このこと、今日の参観日で話し合っても良いかな。
順子        (しばらく考えていたが、明日香達の励ましを受け)…はい。
ナレーション    その日はちょうど参観日でした。先生は、そこで、いじめが原因で死
          んだ中学生の遺書を朗読してくれました。
     父兄役は今出ていない人と、他の劇に出る人でやる。
ナレーション    誰も助けてくれなくて、ひとりぼっちで死んだ人の言葉は、
          みんなの心に深くしみてゆきました。
ナレーション    先生が読み終わった後、参観日の前に先生からいじめの話を聞いてい
          た順子のお父さんがたまらず、話し始めました。
順子の父      わたし、大きな怪我をしましてね。ウチの母さんは看病やなんかで
          大変な思いをしたんですよ。順子の身なりに気が回らなくてね。けど
          バイキンはひどいな。順子が死のうとした思いを、わたしは全く知
          らなかった。
     泣き出す順子。周りの子たちはみんな顔を伏せる。
順子の父      みんなに知ってほしいんだ。人生には晴れる日も曇る日もある。どし
          ゃ降りの雨の日もある。そのとき、雨に濡れている人を指さして笑
          うようなことはするな。傘を差し出せる広い心を持ってくれ!
          このクラスには順子にカサを貸してくれた子がいたんだ。大事な、
          娘の命、救ってくれてありがとうな。心から礼を言うよ。
祐二        ぼくは……怖くってとめる勇気がなくって、反対に、一緒になってい
          ろんなことしたりした。ごめんなさい。
真知子       わたしも。みんなが言ってるからついつい一緒になって悪口を言っ
          たりしてひどかった。ごめんなさい。死のうとまで思ってたなんて…。
宏         おれも、……そんなに思ってるなんて思わなかった。
光夫        ごめんな。ついつい調子に乗って。死んじゃうなんてそんな…。
大介        (ゆっくり立ち上がり)……おれ、母さんによく殴られるんだ。
          その悔しさを順子にぶつけてた。……わるかったよ。
順子        ……(笑顔で)分かってくれたら…いいの。
    わき起こる拍手。明日香もほっと笑顔を見せる。
第5場  明日香の家
明日香       ただいま。ママ、今日の参観日来れなかったんだね。
ママ        仕事が忙しかったのよ。
明日香       ママ、今日ね…・
ママ        うるさいわね。そばに来ないで!
明日香       ……わたしが春野おばさんと似てるのがそんなにイヤなの?
ママ        えっ……。
明日香       ママは、ずるいよ。自分の問題なのに、わたしにぶつけてる。
ママ        明日香…。
明日香       春野おばさんや、ばぁちゃんに言えないことをわたしにぶつけてる
          。わたしはママがかってに傷つけていい存在じゃない!わたしは
          わたしの物よ。他の誰の物でもないの。
ママ        明日香!(頬をぶとうと手を挙げる)。
明日香       ママに愛されたいなんて、もう思わない。ママとは呼ばない!
      間……ママはゆっくりとあげた手を下ろす。
ママ        ……そうね。そうかもしれないわ。直人や雅美がわたしの言うことを
          聞かなくなったのも、明日香の声が出なくなったのも、みんなわた
          しのせいなのね。ママ、間違ってたわ。自分の苦しみや期待を、
          あなた達にぶつけていたのね。明日香をそんなに傷つけていたなんて。
          ……ごめんなさい、明日香。……ごめんなさい。
明日香       分かってくれて、ありがとう。ママ……。
ママ        明日香、ママと呼んでくれるの?
      明日香、元気よくうなずく。
ナレーション    あなたのママで良かった
          生まれて来てくれて、ありがとう
          ママの口からその言葉が聞こえた。
          明日香の心は幸せでふくらんだ。
          人は誰もみな、自分の生きる意味を探す旅人。
          その旅を支えるのは、
          人の優しさ。
          これがあれば、どんなに辛い道のりでも、
          乗り越えていける。
          乗り越えていける。
                          ………………終わり……………