心の闇を打ち砕け!
登場人物
敬一 学級委員。いじめがあることに気づいてはいるが、助けられない。
妙子 いじめられる女の子
由美子 いじめを先導し、荷担する女の子
良子 由美子と仲良し。
幸子 以前いじめられていたが、妙子にかばってもらい、いじめから逃れることができた。が、今は見ていることしかできない。
暢代 いじめに関しては、自分に降りかからないように見ているだけ。
琢郎 おじいさんが外国籍だと言うことでいじめられたことがある。自分も心に傷を持ち、妙子を助けようとは思うが……
博子 学級委員。いじめに関わらないようにしている。
良治 いじめる男の子。自分勝手ですぐ暴力を振るう。
寛 良治の仲間。面白がって、ゲームのようにいじめをしてしまう。
浩介 良治の仲間。おもしろそうなことには深く考えずにしてしまう。 。
和夫 敬一のクラスメート
美智子 敬一のクラスに転校してきた女の子。
豊子 3年生の時に意地悪をされてイヤな思いをしたことがある。
竜子 豊子の仲良しの友達。
山田先生・洋子 敬一たちの学級担任・洋子
佐藤先生 養護の先生。優しく、理解がある。
闇の声(2人)
計19名
第1場稲荷山の上。
小高い丘で森や林がある。成井小学校の5年生はここに遠足に来ている。
山田先生 さあ、秋の遠足、稲荷山に着きました。自然豊かなこの山でみんなしっかり仲良く遊んでください。
この近くでお弁当を食べて、それから合図の笛があるまで、遊んでていいです。みんな仲良くね。
仲間はずれをしちゃだめよ。
それから、バスに酔った人や、怪我をした人は養護の佐藤先生のところに来てね。
それぞれ友達と連れだってグループを作り始める子供たち。その中で妙子だけ浮いている
妙子 あの…
話しかけようとするが、博子や幸子など、女の子のグループは逃げるようによける。
佐藤先生 妙子さん、どうしたの?最近元気がないよ。
妙子 そんなことないです。
佐藤先生 そう?顔色が悪いし調子悪そうよ。しんどくなったらいつでも言ってね。(去る)
妙子 …………。(うなだれる)
良治 (先生がいなくなるのを確認して)くっせーんだよ。弁当がまずくなるだろ、あっち行けよ、ブタ!
由美子 (手を挙げて)そういう人はみんなの迷惑になるので、離れたところでお弁当を食べた方がいいと思いまーす。
浩介 そうだそうだ!あっち行け、あっち行け、あっち行け!(みんなが合わせて大合唱になる)
妙子 ………!(突然走りだし、その場から去る)
良治 あぁあ、くっさいのがいなくなって、せいせいしたなぁ。さーて、べんとうでも食いに行こうぜ。
良子 おいしい空気を吸いながら、おいしーい弁当、食べよう!
みんなぞろぞろと妙子の行った方とは反対側へ行こうとする。
浩介 敬一、一人?一緒に食べようぜ!
敬一 う、うん…。(連れだって妙子と反対側へ歩いていく。)
洞窟の入り口に気づく由美子達
由美子 なあに?この穴は。
良子 真っ暗ね。
敬一 化石でもとれそうな感じの岩だなぁ。
寛 え?化石?
敬一 うん。こういう地層のところには結構貝の化石なんかが出てくる
んだよ。
良治 おもしろそう。探してみようぜ!(中に飛び込んでいく)
敬一 あ、待ってよ!(続いていく)
と、とたんに地震の音がして激しく揺れ、山崩れが起きる。………暗転……
☆第二場 闇の洞窟の中
真っ暗である。闇に目が慣れるように、ゆっくりと薄明かりがついてくる。
敬一 みんな……大丈夫か?閉じこめられちゃったみたいだな。
良治 え?出られないのか?そんな…!(岩を手でたたいてみる。)
闇の声 ようこそ、闇の王国へ。
由美子 闇の王国?なによ、あなた誰よ!
闇の声 ここは人の心の闇を映し出すところ。心に闇を持つ者が集まる場所。
良子 ちょっと、どういうことよ?
闇の声 あなた達の心の闇を照らして、見せてあげよう。
☆いじめのある教室―朝の風景―舞台後ろの幕が開き教室の風景が現れる
美智子 おはよう。
博子 美智子、おはよう。学校に来る道、もうなれた?
美智子 まだ転校二日目だからなぁ。またいろいろ教えてね。
博子 転校するって緊張するもんね。そうそう、これ、忠告ね。幸子とはあまり仲良くしない方がいいと思うわ。
美智子 どうして?
洋子 あの子、今クラスでういているの。あなただって巻き込まれるの、いやでしょ。
博子 なにがあっても見ない方がいいの。知らんぷりをしとくのよ。
暢代 少しでも逆らったら、あなたが次のターゲットになるわよ。
幸子が教室に入ってくる
幸子 おはよう!
誰も返事をしない。目を合わせようともしない。遠巻きに眺めるか、無視である。
机にはたくさんの落書きと張り紙がしてある。幸子はそれを見て、張り紙をはずそうとする。
由美子 幸子、それとらないでね。みんながその机に触っちゃったら、汚いから、かわいそうでしょ。
幸子 ………!
良治 おまえ相変わらず色黒いよな。風呂はいってんのかよ。臭いぞ。
良子 また黙ったまま。なんか暗いのよね、幸子って。なんか言っったら?
良治 うっとおしいからさ、教室から出しちゃおうぜ。
寛 民主的に行こうぜ。みんな、サチキンを、教室から出してしまうことに賛成なやつ手をあげて。
由美子 はーい!(つられて、幸子以外の全員が手を挙げる)
幸子 (闇の声に向かって)もうやめて!思い出したくもないの。昔のことよ。もういじめられなくなったのよ。忘れたいの!
闇の声 その時のみんなの心の声を聞かせてあげる。
敬一(心の声) 僕は…。だれかが止めてくれるんじゃないか。だれかが先生に言ってくれるんじゃないか。
そういう風に思ってた。もちろん、幸子さんも、清潔にしてみんなに何にも言われないように
したらいいとは思ったけど…。止めようと思うけれどやっぱり良治たちが怖かった。どうしても止める
勇気がなかった。
博子(心の声) わたし…。学級委員だからって言うわけじゃないけど、やっぱりいじめはよくないと思うし、見てるのも
いやだったんだけど、良治たちは逆らうとすぐ暴力ふるうし…。止める勇気がなかった。
美智子(心の声)転校してきたばかりで、みんなの様子もよくわからなかった。自分がこの学校になれるので
一生懸命で・・・。なるべく目立たないように、いじめられることのないように息を潜めてた。
暢代(心の声) でも、みんなにこういわれても、自分を変えようとしない幸子も悪いところあると思う。もっと明るくしなきゃ。
豊子(心の声) シャンプーに気を配るとか、みんなに合わせなくっちゃ。清潔にしてない幸子も悪いところあると思う。
由美子(心の声) いつもいじいじしてさ。なに話しかけても、ろくに返事しなかったり、自分の好きなことしかしなかったり、
わがままじゃん。臭いよって教えてあげてるのに、ちゃんとしないんだもんね。自分が悪いよ。
幸子 みんなひどい!私だって好きでこうしてるわけじゃない!シャンプーだってリンスだって毎日してる。色が黒いのは
生まれつきなの。自分じゃどうしようもないの!自分たちとちょっと違うだけでどうしてこんな風にいじめられないとい
けないの?お母さんが病気で入院して、弟や妹の面倒を働きながらお父さんが見てくれて、私もお母さんの看病や
うちのこととか精一杯して、それでも家の片づけまではとても手が回らなくて…。それでも頑張って、学校に来てるの
に…そんなこと知りもしないで、私のこと…臭い、臭いって…色が黒いからって、汚い、汚いって……。誰も話を聞いて
くれなくて…。わたし…。(涙が出てくる)
博子 そうだったの?知らなかった・・・。
闇の声 でも、今、幸子はいじめられていない。それは幸子、あなたを助けてくれた人がいるから。あなたを助ける勇気を持った人が
いたから。あなたを助ける優しさを持った人がいたから。
幸子 ………そう…。妙子が助けてくれた…。
妙子(心の声) 私は、見て見ぬ振りをするのがイヤでイヤでたまりませんでした。そんなとき、いつもお母さんに教えられてきた
言葉が浮かんできました。『人って言うのは苦しい時、助け合って生きていくのよ。もしいじめられてる人がいたら、
絶対に無視したり、そのままほっといたりしたらダメよ。妙子はたくさんの勇気を持っている子だから、正しいことは
正しい、そう言うことが出来る子になりなさい。』その言葉が頭の中をずっとぐるぐる回っていました。こんなんじゃダメ
この一言をきちんと言わないと、私は人間じゃない!
妙子(劇中に戻り) みんな、ちょっと待ってよ!もうやめようよ。自分たちがやってることわかってんの?こんなの、いじめだよ。
幸子が可哀想だよ。
幸子 妙子…。
みんなが妙子の言葉に固まる。しばらく良治の様子をうかがっている
良治 ………そうか。そうだよな。もうやめようぜ。
みんな少しほっとした顔をする
良治 妙子はさぁ、幸子の臭さがわかんねぇぐらい、自分が臭いんだってよ。
妙子 何言ってんのよ、みんな…。
みんな、凍り付いたように動かない。その顔は表情がない。
寛 じゃぁ、このにおいは妙子だったのかぁ。(大げさに驚いてみせる)
浩介 わぁしらなかった、臭い臭い!。
みんな、一斉に見て見ぬ振りをする。
妙子 ・・・・みんな………!(走り去る)
闇の声 こうして妙子はあなたをかばい、いじめのターゲットになった。何の理由もなしに。新しくいじめにあうはめになった
妙子のことを、あなたは…
幸子 助けることができなかった。怖かった。だって、またいじめられるかもしれないから…。もうあんな思いをするのはいや!!!!!
闇の声 だから妙子へのいじめを見て見ぬ振りをしているんだ………。
琢郎 確かにひどいよね。自分には責任のないことで、責められるなんてさ、許せないことだよね。僕だって、おじいちゃんが
外国人なのは僕には関係ないことなのに…。リレーでバトンを落としただけで「外国へ帰れ!」なんて言われたことがある。
闇の声 でもその時君には、助けてくれる友達がいた。
琢郎 そう、和夫がいてくれた。
和夫 気にするなよ。おまえのせいじゃないさ。みんな気が立ってたんだよ。つぎガンバろうぜ!
琢郎 うん…
和夫 リレーはリレー。じいちゃんはじいちゃん。関係ないのが何でわかんないのかなぁ。何でも人と違うことばかり見つけて、
そこを悪く言うなんて、人間じゃないよな!
琢郎 その和夫の言葉は僕の心に刺さったとげを柔らかく抜いてくれた。
豊子 わたしも、そんなことあった。3年生のとき、誰かわからないけどうわぐつを隠されたり、黒板にいろいろ落書きされたり・・・
つらかった。でもそんなときに、竜ちゃんがいてくれた。
竜子 豐ちゃん、黒板の落書き、一緒に消そう。気にしないで。私はいつでも友達だから。みんなわかってくれるよ。がんばろ!
豊子 達ちゃんの言葉が私に勇気をくれた。養護の佐藤先生にも相談して、私は助かった……。
佐藤先生 豊子ちゃん。つらかったね。でも、先生が一生懸命力になるからね。いつでも相談においで、待ってる。
先生はいつでも味方だよ。
竜子 佐藤先生も味方になってくれたね。よかったね。これでよくなるよ、きっと!!!!
佐藤先生 いろんな先生とも相談して、みんなで話し合ったり、学校みんなで考えようね。みんなが楽しく学校に来られるように。
豊子 そう笑顔で言ってくれた佐藤先生や竜子のこえが、いじめにふるえていた私を温かく包み込んでいった。
竜子 でも、幸子の時や妙子の時はそういう風にできなかった。特に親しい訳じゃない。そこまで助ける気持ちになれなかった。
私って、本当に冷たい人間だわ。豊子と二人で、しらんぷりをしていた。
闇の声 でも、妙子は違う。助けてくれる友達もなく、優しい言葉をかけてくれる友達もなく、たった一人でこの闇に立っている。
前も、後ろも見えない底なし沼のような深い闇の中で、死のうとまで思い詰めている。そしてその闇を作ったのは…
良治 お、おれ!…おれ…幸子や妙子がそんなに苦しんでるなんて、考えもしなかった。ただ面白がってはやし立ててるだけだった
んだ。ちょっとした冗談のつもりだった。
暢代 冗談だなんて、たたいたり蹴ったりしたこともあったでしょ。
良治 うん…。やってるうちになんだかどんどん勢いがついて来ちゃって…・。自分でも止められなくなってた。何かいじめてるときは
興奮してるから、楽しいと思っちゃうんだ。でも一人になると、なんかやり切れなかった。何かむしゃくしゃして、そんで、
またいじめたんだ。幸子…ごめん…。妙子にもひどいことしたと思う。
由美子 わたしも!妙子や幸子にひどいこと言った。バイキンといって馬鹿にしたり友達に悪口を言ったりしたわ。今日だって、あっち
行けって………。
良子 みんなで話すときには何言ってもいい感じがして、悪口もエスカレートしてった。今考えると自分の心が、本当に恥ずかしい…!
博子 違う。良治たちだけじゃない。私たち、みんなが悪いのよ。私たちみんなの「やめよう」と言うことのできない弱さがたくさん
集まって、いじめをひどくしてきたんだわ。
暢代 このままじゃだめ。このままじゃ、妙子はひとりぼっちのまま。そして私たちの心も弱いまま。
和夫 ここを出たい!このいじめの闇の中から。妙子が言ってた…「その一言を言わなきゃ、人間じゃない!」って。
妙子の姿が闇の中に浮かび上がる
妙子 もうやめようよ!自分たちがやってることわかってんの?こんなの、いじめだよ!
竜子 生まれ変わりたい。声をかける勇気のない自分から、ホントの心を見ることができる、勇気を持った人間に。
寛 おれも、あやまりたいよ。幸子、ごめん。妙子にも謝りたい。何回でも許してくれるまで、謝りたいよ。そして、いろんなこと、
やり直したい!
浩介 おれも、ごめんって言いたい。謝りたい。
敬一 この洞窟を出なきゃ。ここを出なきゃ、今までのままで僕たちは死んでしまう。
和夫 僕たちは今までなにをしてきたんだろう。
浩介 なにを見てきたんだろう。
由美子 なにを考えていたんだろう。
良治 友達の悲しみ、苦しみ、悩み、
全員 なにも見てこなかった。
寛 うわべばかりを見て、その人のほんとの心を見てこなかった。
竜子 どんな人にも心があって、
洋子 喜びや悲しみを感じるんだと言うことを、
暢代 本当には分かっていなかった。
良子 自分のことばかり考えて、
琢郎 手をさしのべて助けてあげることができなかった。
豊子 ほんの少しの勇気も持てずに、
美智子 いじめを見過ごすことしかできなかった。
博子 そして、見てみない振りをすることは、
全員 いじめをすることとなにも変わらない!!!!
暢代 闇の声の人!たすけて!ここから出して!
博子 これから、やりたいことがあるの!
全員 ここを出たい!やり直したい!優しさと勇気を胸に、仲間と一緒に、進んでゆきたい!
突然の轟音と共に入り口を塞いでいた土砂が崩れ去る。
竜子 あいた!
豊子 助かった!
全員 やったぁ!
敬一 (みんなを振り返り)さぁ、行こう。妙子のところへ。
全員、力強くうなずく。
ー幕ー