ペルソナ 第1話
「はじめまして。私は秋穂と言います。日記がとても気に入ったからメッセしちゃいました。どんな人なのかな…。」
夜更けまで仕事をして、そのまま夜の続きのような朝を迎えていた僕は、身体の芯が妙に疼いて、深く考えもせずに返信した。
「どんな人でもないですよ。日記の通りの人間です。何人かのセフレや時々できる彼女と慎ましく楽しんでいるだけです。」
僕の本音。飾り気のない現実をポロリと伝えてしまう。あまりにも無防備な答えだった。
「何人もセフレがいる生活ってどんなものなの?身体だけが目当てなの?女の人を騙しているの?彼女たちはそれでいいの?…」
矢継ぎ早に質問が来た。
僕は無防備な回答を悔いた。
疲れているときに見ず知らずの他人に、僕と彼女たちの関係を詮索されるのは疎ましかった。
「誰も騙してないし、僕たちは満足している。誰も傷つかないし、誰にも嘘は吐いていないよ。例え、それがあなたの理解の外の理屈でもね。」
僕は話しを切り上げるつもりでそんなメッセージを返した。
暫くすると、彼女から意外な申し出が返ってきた。
「じゃあ、私と寝てみてくれないかな。本当にあなたが嘘を吐いていないか、合って試してみたいの。」
僕は慎重になる。ミクシィをしていると時々こんな申し出を受けることもあるけれど、大切なことは寝ることじゃないから。
僕は彼女に質問で返す。
「寝るのは構わない。お互いがそうなりたいと思うなら。でも、僕を試す前にあなたは正直なのかな?」
彼女は彼女の誠意を見せた。
「私の本当の名前はヒトエ。小学校の教師をしているの。私のプロフィールは…。」
そのメッセージには詳細な経歴と携帯のアドレスが載っていた。
僕は自分のプロフィールを作成し、そのアドレスに直接メールする。
僕たちは会ってみようという事になった。
お互いを試してみようということに。
待ち合わせは数日後。
僕とヒトエはそれほど遠くない街に住んでいた。
お互いの中間となる駅で、僕たちは落ち合うことにした。
約束の時間より少し早く着いた僕は、植え込みの囲いのレンガに腰掛けるとSF小説を読み始める。
僕の特技はどんな場所でも本が読めること。
例え右翼の街宣車が通り過ぎても、僕の集中力は途切れない。
遺伝子操作されたデザインヒューマンが人類の大半を占める世界で、遺伝子配列のデザインミスによる奇病が蔓延し始めた…ところで目の前にサンダルを履いた足が現れた。
タイトな膝丈のスカート。揃いのスーツに、上品なブラウス。
肌理の細かい色白の肌と、切れ長の目が印象的な女の人が僕の前に立っている。
「あなたがアカクロの人?思ったより…まあ、いいわ。場所を変えましょう。」
僕は立ちあがってジーンズについたほこりを払うと、お尻のポケットに読みかけの本を差し込んだ。
僕と彼女は駅前のコーヒーチェーンに向って歩き始めた。