2 一つの基本的理論と、四つの分析の枠組


TAの理論的構造性


   TAの理論は、一つの基本的理論と、四つの分析の枠組みで成り立っています。


基本的理論

   TAという心理学の中で、その中心をなすものは、
ストローク・ディスカウントの理論です。
  ストロークというのは、“人が人に係わるときに、どのような刺激を相手に与え、どのように
  相手に係わるか”、その係わり方を、分析、考察するための概念です。
  TAでは、
ストロークとは、“人が人に与える刺激で、相手の存在、価値その行為を認めてい
  ることを伝える働きかけの刺激”
のことを言います。

   これに対して、ディスカウントとは、ストロークに相対する反対概念で、一対をなして一つの
  基本的理論となっています。

  
 その意味合いは、“相手の存在、価値、その行為を、実際より小さいものと見たり、無いものと
  見たり、問題性のあるものと見たりする、物の見方、感じ方で、そこから出てくる人への係わり方
  の刺激”
のことを言います。


4つの分析の枠組み


   この基本的理論をふまえて、そこから、次の、4つの分析の枠組みが展開されます。

  @ 自我状態分析 
    人柄はどのような形成のプロセスによって、どのように作られ、どのような構造性になっている
    かの分析

  A やりとり分析
    その人柄の構造性から見て、どのような人と人との係わりの持ち方をしているかの分析
    

  B 心理的ゲームの分析
    人柄の歪みはどのようなプロセスで作られ、その歪みから、どのような、問題行動や問題のある
    生き方がパターン化されて出てくるかの分析


  C 人生脚本の分析
    人はその成育過程のプロセスから、子供の頃に、自分の人生の生き方や進むべき方向性を決め
    てしまい、それ以降は、当人も気づかずその方向性に沿って生きていくが、その方向性、生き方
    の分析。



  これを図示すると、下図のようになります。


  

  

   
私達が、敢えて“TA”と言い、“交流分析”といわない理由

   トランザクショナル・アナリシス(Transactional Analysis ) という言葉の訳語としては、
  『交流分析』という訳語は適切と思われます。しかし、TAという心理学を、“交流分析”と
  訳したり、言ったりすることは、上記に述べたように、TAが、狭い意味での 『やりとり分析』の
  意味としてとらえられ、誤解されやすいともいえます。

   TAという心理学の、その本来の目的が
“自分の生き方を考え、自分を変えるための心理学”
  です。それを大切にするため、私達は、もう一度、適切な訳語が出来るまで、“交流分析”と言
  わず、敢えて、略号の“TA”と呼ぶことにしています。










補講 人間的能力の成長とは
    (ヒューマンスキルという能力)


ケーススタディ


   「このハゲ・・・!!、違うだろ・・・!」と叫んで、一躍有名な「時の人」
   となった、元自民党の豊田真由子議員のことを考えてみよう。

   「豊田真由子様に向かって・・・」など、議員の新たな暴言を週刊新潮が
   再三報じている。音声もまた公開された。音声データには、豊田氏が「こ
   の、ハゲ・・・っ!」「これ以上、私の評判を下げるな!」などと大声で
   叫ぶ様子や、男性秘書が「もうすいません、叩くのは…」と謝る様子も収
   められていた。

    豊田議員は女子御三家の名門、桜蔭高から東大法学部を経て厚労省に入
   省。その後ハーバード大大学院も修了、衆院議員に当選後は文科大臣政務
   官などを歴任するなど輝かしい進路をたどってきた。

   さて、この人の能力は、高いのでしょうか、低いのでしょうか?



人間の能力とは

 
   私たちは何を基準に、能力を測っているのでしょうか?
   学校では、「学んだ事柄を、どれくらい理解しているだろうか」を基準に、テスト問題をつくり、
   その正答率の高いものが能力的に優秀としています。この考え方は広く受け入れられ、一般的な
   ものとなっています。ところが、これは本当に正しいことなのでしょうか?

    経歴を見る限りにおいては、豊田真由子氏の能力は、極めて高く、国を動かす官僚のエリート
   であり、自民党の将来を担うべき人材と期待されるホープでした。
    でもそれほど能力の高い人が、周囲にいる人達からも、マスコミ関係者からも、地元の有権者
   からも、激しいバッシングを浴びせかけられ、成果としては何も上げることが出来ず、議員辞職
   をせざるえず、人前から姿を隠す事になったのをみると、一概に高い能力を持っているとは言い
   難いのではないでしょうか?


知的能力は、能力のほんの一部

    能力を、「提示された事柄の意味合いを理解し、記憶し、過去の記憶された事柄と関連づけ、
   さらに統合された知識として蓄えて、使えるように備えておくこと」と定義するなら、その経歴
   から推察すると、きわめて能力は高い人であるといえます。こうした能力を「知的、論理的思考
   能力」と呼ぶことにしましょう。

    にもかかわらず、彼女を巡る一連の出来事と、世間の反応を見ていると、とても能力の高い人
   とは思えません。何故でしょうか?

    答えは簡単です。能力を「知的、論理的思考的能力」だけと考えていると、その間違いを突き
   つけられるからです。能力は「知的、論理的思考的能力」だけではないとする考え方があります。


対人関係能力(ヒューマン・スキル)とは
  

    
その一つは人間関係を管理する能力(スキル)言われる能力で、その人の人柄を通じて
   発揮される能力です。その働きは、相手の言動を観察、分析し、本来の目的を達成するために、
   相手に対してどのようなコミュニケーションや働きかけをするかを判断し、効果的な方策を選択
   し実行できるスキルです。
    このスキルは単なる言語的な意味合いを通じさせるコミュニケーションではなく、「目的に向
   かって」相手や集団に働きかけ、相互作用を促して、効果性を高めていくと言う能力です。
    具体的スキルとしては、リーダーシップ/コミュニケーション/ファシリテーション/コーチ
   ング/プレゼンテーション/交渉力/調整力が挙げられます。

    でも“人柄(パーソナリティ)”と不離密接な関係にあるこうした能力を云々されることは、
   一般には
、ほとんどありません。それは“プライバシーの保護”の名目で、『相手との人間関係
   を築く上では、その人の人柄に触れることはタブーである』
というのが、現代の社会的常識とさ
   れるからです。
    また、その能力の有無や程度を測ることが極めて難しいことから、問題にされることがなく、
   無視され、放置されることとなっています。

    はっきりと言えば、今の世の中で指導的な役割を果たす人達の中には、知的・論理的思考能力
   は極めて高いが、人間的な能力には強い問題性を持つ人がかなりの人数がいて、そうした人達は、
   自分の人柄に触れられることは、不快で都合が悪い事なので、できるだけ拒否して避けよう
   とする傾向
があるからです。


人間的な能力の成長とは

    人間的な能力は、その人の人柄(人格・パーソナリティ)や、その形成過程と不離密接な関係
   に有ります。もしも、自分の人柄の中に、対人関係をうまく構築できない問題性があるとすれば、
   『何が問題なのか、どうして問題なのか、どうすれば良いのか』がしっかりと認知でき、より良
   い結果が導き出せる事が出来るように“変化”する必要があります。

    
“成長”する事を一言で表現すれば、『今までよりも、より良い状態に“変化する”こと』
   
と言えます。子供が成長する事を考えて見ると、背丈が伸び、体重が増え、筋力がつき、自由に
   手足を動かし、今まで出来なかったことが出来るようになり、一時的な感情をコントロールする
   事が出来、周囲の人との折り合いを上手につける事ができるようになります。
    このように、成長しているときには、
今迄よりも、より良い状態に“変化”しています。

    人間的な成長も同じ事で、物事の見方、感じ方、捉え方、反応の仕方、行動の仕方が、相手と
   の関係性を、より相互の理解を深め合い、問題解決への協力性を高めるような方向にいくように
   変化することこそ、“人間的な成長”なのです。


正しい自己認知こそ、成長の証

    何故かというと、未成熟な人や、自己中心性が強い等の大きな問題性のある人は、大体におい
   て、自分についての正しい認知が出来てないことが、一般的です。
    自己認知が、願望や期待、強い感情や自己中心的な発想、思い込み、強い不安や恐怖や怒りに
   基づいたもので形成されていたとしたら、自分の力や能力を、過剰に大きく見たり、反対に過剰
   に過小に評価したりしているので、“ 自己認知 ”が全く当てにならないのは、当然の話です。

    こういう人は、周囲の人達に『 当人は 自分のことを……と言ってますが?』と聞いてみると、
   『 正反対ですよ!』、『 あきれた!』、『 それは嘘でしょ!』と、反応します。

    人格的に成長している人は、一般的に、“ 知的な能力 ”も高く、人柄的にも、周囲の人達か
   ら尊敬の念を持って見られているような人でしょう。こういう人達は、多くの人と出会い、いろ
   いろな体験を深め、人、物、出来事、社会の仕組み等の、様々な領域にも、歪みの少ない、広く
   て高い視点を持ち、深い洞察力があります。対人関係では、人の話が聞け、人の気持ちを受け止
   める事が出来ます。そして、自分にとって耳の痛いことも、自己防衛的や感情的にならずに、
   相手の言うことに耳を傾けられます。また、自分の情感も豊かで、周囲を楽しませたり、喜ばせ
   たりもします。

    こういう人達の自己への認識は正しく、周囲の人達の、誰に聞いても『そう、その通りです! 』
   と言うでしょう。これで分かるように、
自己認知による自画像と、その人の周囲にいる多くの人
   達による認識像が一致するように自己成長、自己変革していくことこそ“人間的な成長”なの
   です。
この過程の中でTA(交流分析)を学ぶことは、大変役立つのです。