8 人柄を形成するもの (ストロークとディスカウント) ストロークとは 私たちが、周囲の人とどう係わるかの姿勢、傾向性は、子供の時に、親からどう係わられ、どんな 刺激を受けてきたか、そして、どのような人柄の部分が形成されてきたかに、大きく影響されます。 TAでは、こうした親からの、肌からの、あるいは態度や言葉からのさまざまの“係わりや触れ合い の刺激”を“ストロークとディスカウント”という相対する概念を使って分かりやすく説明して います。 “ストローク(Stroke)”という英語の言葉の意味は、「なでる、さする、愛撫する」など肌から 肌への係わりの刺激の意味ですが、TAではそこから発展して『相手(あるいは自分)の存在や価値、 あるいはその行動を“認めている”ということを伝える何らかの行動や働きかけ』であると 定義しています。 ストロークの神経生理学的な意味合い TAの開発者エリック・バーン博士は 『肌からの触れ合い、言葉や態度からの刺激のストロークは、 脳を中心として、身体全体の神経系の発達を刺激し、その機能の発達を促進している。『ストローク が不足すると、その子の、脊髄の神経細胞は萎縮し、肉体的にも、情緒的、精神的にも、成長や発達 が遅れる』と言っています。 ストロークが人柄の中に形成するもの 人間には、生まれた時から“肉体的な触れ合いの刺激への欲求”があります。この欲求が人生の 初期に充分満たされると、自分や他人に対する基本的な信頼感と肯定感が築かれます。この欲求が 満たされないと、不信や疑い、必要以上の警戒心などといったものを、身につけてしまいます。 肯定的ストロークと否定的ストローク “なでる、さする、抱く、うなずく、認める、ほめる、励ます、感謝する”などのストロークが、 赤ちゃんや子供にとって気持ちの良い、安心できる刺激です。こうした自分の存在や価値を、肯定 的に受け入れてくれるストロークを“肯定的ストローク”と言います。 これに対して、“叩かれる、叱られる、注意される”などの、否定的な係わりの刺激は、子供に とって、痛かったり、緊張したり、辛かったり、きつかったり、悲しかったりします。しかし、心 の一方では、親や周囲の大人が、『社会の中で他の人と協同して生きられるような、姿勢や考え方 を、自分に与えようとしている。自分の存在や価値を否定しようとするものではない。自分のこと を考えてくれている。』と、親の愛情を感じるようになるのです。 ですから、一見すると、否定的な刺激に見える、こうした係わりの刺激もストロークなのです。 なぜなら、否定するのは、子供の存在や価値、可能性の否定では決して無く、子供の行動の一部 についてのみ『悪いことは悪い、いけ ないことはいけない』と否定しています。こうしたストローク を、“否定的ストローク”といいます。 特に成長期にある子供には、悪いこと、間違ったことを、 しっかりと教える過程で、否定的ストロークも必要不可欠です。 ストロークとディスカウント “ストローク”の対局にあるものが“ディスカウント”です。 “ディスカウント”の意味は、まさに“値引き”です。何を値引くかというと“相手(自分)の存 在、価値、あるいはその行為”についての値引きです。 つまり、それらを、“軽視したり、無視したり、あるいは、全く否定したり、排除したり、抹殺 しようとするような、見方、感じ方、態度、行動”などの、心のメカニズムと、その表現の態度・ 行動です。 ディスカウントの体制は、どのように作られるか TAの創始者、エリック・バーンは、“全ての人は、より多くのストロークを得ようとして、その 生を全うしていく”と言っています。 しかし、生まれながらにしてストロークの欲求はあったとしても、その人なりの求め方、受け方、 意味合いの置き方、傾向性や癖は、親や周囲の大人達から、少しずつ、意味や感触の違った“スト ローク”を受けているうちに、その人なりのものを作っていくと考えられます。 これに対して、ディスカウントの授受の体制は、生まれた当初には、無かったとしか考えられ ません。ですから、ストロークの傾向性が、育てられていく過程の経験から作られていくと考え ると、ディスカウントの授受の体制も、“ストロークの授受の体制や傾向性”と同様に育てられる 過程の経験のプロセスの中で形成されると考えられます。 親や周囲の大人達から、歪んだ刺激(=ディスカウントの刺激)を受けているうちに、それが 自分の中に歪んだものの見方、感じ方、価値観、態度・行動、生き方となり、それによって周囲 の人達をディスカウントすることになるのです。こう考えると、“虐待の連鎖”は何故起きるのか、 がよく理解でき、納得ができます。 混同される“否定的ストローク”と“ディスカウント” TAについての初歩的な間違いの一つが、“否定的ストローク”と“ディスカウントの区別”が つかず混同されることです。 これは、ストロークとディスカウントの定義をしっかりと踏まえて考えればすぐに分かることです。 否定的ストロークは“態度・行動の一部だけが否定されるが、存在や価値は肯定される(否定は無い) 刺激”なので、だからストロークなのです。皆さんは、ここをしっかりと理解して下さい。 もう1つ、ストロークとディスカウントが混同される結果となるものに、ストロークの与え手と 受け手の間の感覚のズレを挙げておきます。 ストロークの与え手が、「これはストロークだ」と思っていても、受け手の側が「これはディス カウントだ」と思ってしまえば、結果的にはディスカウントになってしまうのです。ですから、与え 手か受け手のどちらかに、刺激の与え方、受け取り方の感性の歪みがあれば、ストロークについての 混乱が生じるのです。 “ディスカウント”は、次の第9講で詳しく説明します。 ストロークの具体例については、次の図を参照して下さい。
|