「この間,新聞にシカのことが出とったろう」 「そうそう,東の方(岡山県)でシカが増えたって,食害で困っているってね〜」 「雨も降ったことだし,明日足跡でもとりにいく?」 え? 今回は主人が言い出しっぺ? 大体「どう?」なんて様子をうかがうのは私だが,まさか先を越されるとは少し悔しい。が,なんだかんだと休日は用事が立て込んでいる。このチャンス逃すと,次の機会はなかなか巡ってこないかもしれないぞ。 よーし,シカ探しに行こう! 狩猟期も済んだことだし,薮でゴソゴソしても獣と間違えて撃たれることもないだろう。 ということで,平成13年2月25日,シカ出没地に付近に出かけることになった。 一言にシカというが,日本にいるニホンジカには,ホンシュウジカ,エゾジカ,ヤクシカ・・・など,思いの外種類があるらしい。ここ岡山県はホンシュウジカ,生息領域は主に県の東部なので,完全に我が家のテリトリー外である。したがって,シカは動物園の柵の中とか,修学旅行の奈良公園でしか見たこともない未知の生き物というわけだ。 以前からシカは気になる存在である。痕跡をこの目でみたいし,何しろ石膏セットが出動を待っている。 多分な希望を持って,目的地の東北東へ進路をとろうではないか! 取りあえず山道に沿って車をクネクネ走らせよう。 「・・・で,どの辺にシカが出るか知っとる?」 「うーん,行ってみればどこかに出とるじゃろう」 情報は岡山県東部のある町とだけ。ハッキリ言って,ものすごく漠然だ。手探り状態ともいう。楽天的な私としては,小橋も歩けば鹿に当たる,ぐらいにしか思っていない。 「あそこのお店で聞いてみたら? シカは何処に出ますか?って」 「でも,取りあえず探してみて,なかったら聞くとしましょう」
当てずっぽで車を走らせると谷間の田舎めいた道に出た。山裾には防御柵やネット。イノシシ対策かシカ対策か? さらに山の方へ進むと,廃田が並ぶ山間の場所に行き着いた。車通りもほとんどない,舗装ぐらいは一応しましたという程度の山道だ。 キョロキョロ。 むむっ・・・ぬかるんだ土,枯れた背ほどのイネ科の植物,背後に小高い山が。 「止めて〜! ちょっと見てくる」 動物的直感,私がシカならここが好き!! アニマルトラッキング,動物痕跡捜し,こばし流はまず動物の気持ちになることだ。 シカになった私は,夫子どもを残してそそくさと薮の中へ消えていった。 ●傾向その1 「母がしばらくして帰ってこなければ,何かみつけたいい証拠」 徘徊している下方から,しびれを切らした主人と子どもがやって来るのが見えた。 慣れたものだ。 足跡 前日降った雨で予想通りジルジルぬかるみが出来ている。そして,背丈ほどの草の間に踏み固められた獣道。 これは結構大型の動物の幅だ。
「あったあった,何かの足跡!」 一つ見つかると楽な物で,つぎつぎと前後左右と目にはいり,おおお,よく見てみれば,足跡の中にたたずんでいる状態だ。 二つならびのこの足跡,よく見ると,以前採ったイノシシの足跡より華奢にみえる。 ・・・とするとシカの可能性大? どこがイノシシと違うのかこのとき採った石膏の足跡で大ざっぱに較べてみよう。
個体差もあるだろうし,付いた状況にもよるからどちらがどうだとは言えない。しかし私の頭の中では,どことなく「イノシシは豪快・地下足袋型」,「シカは裁縫にぎりバサミ型」という足跡イメージができあがってしまった。 獣道 シカの足跡の周りを見渡せば,あっちこっちに獣道がみつかる。 シカも大きいだけ人間が軽々通れるだけの道幅がある。ここの山に作業に来た方の道? でも,ときどき身長制限に引っかかるのだ。屈むのは当たり前,坂道だって当たり前,イバラのトンネルすら当たり前,軽やかに駆けめぐる動物の獣道だ。 「おお〜,滑ってる!」 ザザザーと滑った後がある。うまい具合に坂を滑り台。それともツルリと行ったかな。 この獣道の先に,シカがいるんだなぁ・・・ 以前イノシシの痕跡漁りをしているときのは,襲われたらと不安が押し寄せていたが,今回のシカはウキウキ気分,お目にかかれるなら遠目でも良いからお会いしたい。が,山にこだまするような大声の子ども達。たぶんダメだろうと諦め気分である。
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