フ ン は 語 る (前編)

(平成14年 3月22日UP)

山道はフンだらけ

 山路を歩きながらこう考えた。
 物を食べるとフンが出る。生きているから当たり前。見て見ぬ振りをしても目に入る。とかくにこの世はフンだらけ。
・・・と文豪は言わなかったけれど,山道にはまずフンが落ちている。
 ペット&ヒトのは言語道断だが,野生の獣の落とし物は見逃せない。接近→内容物確認→落とし主推理,そしてこれぞというフンがあった場合にはニンマリと袋に収穫,ということになる。
 これを目撃されたり告白すると「げげっ,人は見かけに寄らずー」と引かれたり,冷やかしの対象になったりする。フンコレクション(通称フンコレ)をしてるものにとっては,とっても住みにくい世の中なのだ。
 それだからこそ堂々と胸を張って「ほおら,フンはこんなに面白い」と声を大にして言いたい私だ。

 では,フンのなにに惹かれるのか。
 まず第一に,野生のケモノって滅多に見られない。普通に暮らしている人にとっては,せいぜいイタチが突然目の前を横切っておおっと驚くぐらいだ。
 フンはケモノのフィールドサインの一つ。これを見ているとケモノの息づかいを感じることが出来る。動物によって大きさ・形も特徴あるし,内容物を見れば季節感満点,昨日の食事とか体調すらわかる時がある。

あっちこっちで見つかるバラエティ豊かなフン 
草原にウサギ 骨・爪・毛入りテン 爪・羽根入りイタチ? 部屋の窓にコウモリ 早春の新鮮なシカ アケビ種山もりテン?
少し大きなものがご覧になりたい方は画像をクリック!

 いかにも下痢気味のキツネのフン,カタツムリ丸飲みしたらしいフン,小鳥を襲って食べたと見られる羽根と爪の入ったフンやら,秋の美味しそうな果実の種が山盛りフン,若葉をいっぱい食べた薄緑がかったフン,甲虫やネズミらしい骨が入ったフンなどなどー。
 実にバラエティ豊かなフン・・・その出会いというものは,大げさに言えば二度と同じ物はないという「一期一会」の趣さえ感じられる。
 そしてフンは情報の塊だ。想像と推理をもって見れば,脳裏でケモノが動き出す。

フンの山発見

 さて,時は2月23日,この日はいつもにも増してフンづいていた。
普通はポロポロに…
 お散歩に出かけたお宮の階段には雪だるまのようなムササビフン,椿の咲く山道では種入りイタチ糞が数々,階段の途中やら脇の岩の上やら,いく先々でフンと対面できた。
 その足で実家へ行ってみると,少し離れた田舎にある祖母の家の畑では,一大事件が発生していた。
「畑に埋めたの,取られたで」
言ったのは父,埋めたのはケモノ,取ったのはタヌキ。
「遠くには持ってイケれんで。周りを探してみぃ」
と,そう言われて周囲を捜索することになった。
花びらの絨毯がきれい

 祖母の畑に隣接するのは父の知人の土地で,数々の苗木を植えているのが林となっている。既に成長して鬱蒼としていて,夏ならば確実に蚊の大襲撃を受けそうな場所だ。だが,そんな所というものは往々にして見つけものの宝庫,実はワクワク・ドキドキだ。

「あったー? うーん,ないねぇ〜」
 暖かな午後,早春の木漏れ日がちらちらして,ピンクの絨毯をマダラに輝かせる。
「あ,鳥の羽根があるよ!」
おお,これはアオバト! 何かに襲われたのかな? よしよし,次男でかしたぞ。
「巻きぐそー!」
うーむ,なかなか芸術的な巻きっぷり。長男のフン眼もたいしたものだ。
 だんだん本来の捜し物も忘れ,各自もくもくと地面散策を楽しんでいる様子を呈してきた。

「母さん,ウンコがいっぱいあるよー」
長男が叫んでいる。またまた巻きものかな?
 サザンカのピンクの絨毯の中を足早に駆け抜け,長男の目線をたどってみると,その先には小高い山がいくつか見えた。
「おーー! これってタヌキの溜めフンじゃない!」

 溜めフン,それは獣のトイレである。
 ケモノには,それぞれフンの仕方があって,キツネやテン・イタチなどは獣道沿いに目だつようにぽとんぽとんと落としてマーキング代わり・なわばりを主張している。
 それに対して場所を決めてフンをするケモノがいる。それも家族で使っているらしい。それは積み重なって山盛りだ。こんな状態のものを「溜めフン」といい,里山の動物ではタヌキやアナグマにその習性がある。
 実は,10年以上前に実家の倉庫辺りにもあったのだが,そうかこれがタヌキの溜めフンか・・・と気が付いたときには既に風化,捨てトイレになっていた。その悔しい思い出のリベンジもかねて,ちょっとおトイレ拝見といきましょう!

フンの山を覗いてみたけれど…

 まず,フン観察必需品の棒を辺りで見繕う。
 相手はフンである。どんな病気や虫が潜んでいるかわからない。さすがに私も素手で触るようなことはまずしない。使う棒は何でも良いと言うわけでなく,短いと手に付くし長いと思ったようにいじくれない。ちょっと硬度も必要だ。ただの棒に見えて選択は慎重だ。
 これぞと言う棒を使ってフンの山を観察してみる。
当然のごとく,下になっている部分は古くて形が崩れ気味,新鮮そうな柔らかい物が頂点に来る。フン山は4つほどあり,その山はそれぞれ特徴があって,一つは銀杏の種が多数入っている。それからお隣の山にはセンダンのシワシワの実がそのまま沢山だ。山の状態を見ると,銀杏の山の後,センダンの山が出来たらしい。

 さて,棒でほじっていると内容物が出てくる。
フンを水に溶かして内容物を調べるという方法をたまに目にするが,それによると,季節の食べ物のかす 虫,種の他に,人工物が出てくることが問題になっている。
 輪ゴムやソーセージの留め金やビニールは混じっているかな?
 このタヌキの溜めフンを棒でいじってみた限りでは,人工物は見えないし沢山の内容物は見えないな〜という感じがする。
 ふーーん,今の季節って解るのはこんなものぐらいなのかー。
 ふと時計を見ると帰宅しなくてはいけない時間が迫っていた。
慌ててつついてほじったところ整形し,出来るだけ元通りにして,溜めフンを後にすることにした。

 帰り道
「あー,こんなところでマヨネーーズのかすかじってる」
 ぐちゃぐちゃ噛んだ後の空きかすが転がっている。お,これは人工物といえる。なくなった部分は食べたのかな? 気になるなぁ・・・。
歯形クッキリのサツマイモ
「あ,歯形がついてるよー」
「これは,さつまいも! うちの畑のだね,きっと」
くっきり歯形を付けたまま残しているのを見ると,わがやのイモって不味しくないのかな。タヌキは美味しいものはよく知っているもので,去年は畑のイチゴをほどんど食べられて困っていたっけ。
 タヌキも頑張って生きているんだなー
 そんなことを考えながら家まで帰った。

 さて,問題の溜めフン。
現場では軽く銀杏とセンダンぐらいか・・・と思っていたが,実はそれは私の大間違いであった。
 それに気が付くのは,わずか2日後のことである。 
(後編へ続く)


「フンは語る」後編

〜フンから見えたもの〜






                トップページに戻る