ヒ ガ ン バ ナ (狂詩曲) 

Bエピローグ〜例の種はどうなった?

化はなけれど虫は湧く


10/28
拾ったときとそのまんま

11/2
怪しいものだけ不変

11/6
その他は枯れたけど・・・

「いつまで経ってもこうだったりして?」
「熟してないんと違う?」
 あっさり主人は口にする。”大丈夫,種にきまっているさ”なんておべんちゃらでも言って欲しい。が,主人の書斎まで占領されたとくりゃ,私に気も使っておられない。
 10月25日に秘境・ベランダへ格上げとなったヒガンバナは,じれったいほど変化がない。同じ茎に付いていた他の花後の子房は,徐々にいい具合に色が変わっているというのに,怪しげな膨らみの子房だけは一向に変わらない。永久にこのまま変わらないような気までしてくる。それとも,漱石の「夢十夜」のように100年も経って突然パカッと出現するのであろうか? 
 よく考えてみると,ベランダに移動して一週間しか経っていないのだが。

 ある日ふと思った。
「虫コブだったらどうしよう・・・」
 虫コブとは植物の葉や茎の中に昆虫が産卵寄生して,プーッと膨れる現象だ。
 そんな妄想もよぎる10月30日,朝のことである。
 オヨヨ,虫が這っている! 
 それも2mm程のサーモンピンク! 
ファンシーな色だが一大事。なめるように確認すると,ウジウジ動くムシは,なんと10匹。”だいじ・さわるな”のヒガンバナの種もどきをかっ歩している。エイリアンのごとく中から出現したのか? でも,ヒガンバナに穴は開いていない。3日間に渡って片っ端からプチプチ潰していくうちに,何とか根こそぎ退治できたようだ。

 ああ,よかった。
 でも,あのピンク虫,一体何だったんだろう??

種をめぐる人たち

 実際にヒガンバナの種を見つけたという,そんなラッキーな方に出会った。
「ふつう,この時期には(11月11日)花が咲いた後は茎が倒れているでしょ?」
ふんふん,そうそう。そして葉が出かかっている。
「でも,種が出来ているものはピンと立っててね・・・」
なるほど,いい目印になりそうだ。
「そして,他のはもう茶色いけどそれは緑色。」
「あ,うちの怪しいのも緑です! なかなか種っぽくならないんです」
「去年見つけたのは茎だけで,先生がそれじゃあ解らないから球根がいるって言われてね,今年は球根ごと持っていって」
え? 去年も今年も見つけたんですって? それはスゴイ! でも球根もいるって・・・どうしよう,チョッキンの上に哀れにゴミ同然の扱いだった。
「ヒガンバナの子房って,3部屋に分かれていますよね,種はいくつ入っていたんです?」
「私が見つけたのは,どれも一つだけだったけど」
「見つけた時は緑だったわけでしょう? だったら,茶色になるのを待って割ってみたんですか?」
「そのまま先生の所に持っていって・・・」
うーん,やっぱりチョキンは良くないのか?

 その後,私のドタバタを知っている方からこんなメールが届いた。
「ほんとに結実してるのかなぁ?」
ギクッ,そこが大問題。試しに画像を見てもらおう。
「画像みました。う〜ん (・_・)..ン? まだ熟れていないのかなぁ。先生によると,とにかくじっくり待つ事です、だそうですよ。茎が枯れてしまうまでだと思います。」

”鳴かぬなら,鳴くまで待とう,ホトトギス” 
徳川家康のこの精神に欠ける私は,このメールを受け取る直前に織田信長になっていた。
”枯れぬなら,日に当ててしまえ,ヒガンバナ”
 しまった! 
 乾燥を焦るあまり直射日光に当ててしまった!


運命の分かれ道

 後悔先に立たず。あの日あの時の光線攻撃がまずかったのか,これは運命なのか,日に日に急速にシワっぽくなってゆく。手でこわごわソオッと押してみる。種が出来ているとしたら固い丸いものに当たるはず。えええ? そんな予想に反して全体が柔らかくなっている。
 じゃあ,プックリとしたこの膨らみは一体何?
 気になる中を見てみたい,でも,あせりは禁物・・・。葛藤だ。
「ちょっと切って覗いちゃおう!」
私は葛藤の中間をとることにした。ダメージを極力抑えて切った隙間から覗くだけ。これなら何とかなるだろう。
 運命の時は11月24日,右手にカッター,左手にピンセット,目には実体顕微鏡。覗きながら切るなんて,プラナリア以来だ。が,相手はニョロつく相手ではないから安心安心。フッて鼻息で飛ばさないように,息を止めましょう。
 自分で自分を励まし落ちつかせながら,ドキドキの運命の一瞬である。
吉と出てニッコリ微笑むか,凶と出て虫コブを破壊してギャアと叫ぶか?
「ん? あれ?」
コッソリ隙間から覗くなんてイヤらしい事しているからよく解らないのだ。ええい,思い切って開いちゃえ。

顕微鏡接眼レンズから,直接カメラで撮れるんだ〜!
・・・カメラのレンズに丸い型が付いたのは主人には内緒。

 子房は3つの部屋に分かれていて,そのひとつの部屋からは約2.5mmの薄茶色の球形のものが見える。その背後には白い1・5mm程の丸いものもある。その薄茶色の表面は少し凹んでいる。他の2部屋も切り開いてみると,中からは明らかに未熟な小さな白い球形のもの合計3つ出てきた。これらと比べても,唯一の薄茶色のものは遥かに大きくなっていることが解った。どう見てもこれ以上は大きく固くなりそうもない。どうやら画像で見た本物のヒガンバナの種のできそこないらしい。
 悔しい,もう一息だったのに!
 あーあ。

「残念メール打たなきゃね」
 はじめから出来損ないの種になる運命だったのか,はたまた,偶然の賜物か,それとも,やっぱりポッキンが影響したのか,それは誰にも解らない。
 来秋,きっとまたキョロキョロして宝探し,ああ,今度こそはこの目で本物が見たい。また子供にポッキン採らせて,いろんな実験でもしようかなあ。

先ほど降った雨がウソのよう。青空広がっている。
日差しがまぶしい。ポカポカする。
飲みかけのコーヒーカップ。
だらっとイスにもたれる。
ふー,この一ヶ月半がとっても長かった。
毎日ドキドキして穴が開くほど眺めたなあ。 
こーんなちっぽけな種に一喜一憂だなんて・・・

あーあ・・・,なんか平和だなあー。
眠くなってきた。

★後日談(2000.10.3)
その後,キョロパパさんから「ヒガンバナの種」についての,驚くうんちくを戴きました!
私は偶然,昔の研究者の方と同じ事をしていたようです。必見!
      
「な〜るほど!自然観察的うんちく話」


「続・ヒガンバナラプソディ」
4.果報は寝て待った

それから数年後のお話です! ぜひご覧ください



 
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