はやにえハンター出動!
すれ違った方が,そう声を掛けて下さる。 デジカメで撮っている背中に,暖かい視線を感じることもある。 歴史的建造物と菜の花畑の組み合わせって,きれいで絵になるもんね。 だが,実ははやにえ狙いだなんて,誰1人気が付くまい。 吉備路はとーっても良いところなのだ。 五重塔の周りには梅園がある。 梅の木というのは,前々からはやにえ多発地帯との名が高い。 桜切るバカ梅切らぬバカ,といえばピンと来るだろうか。 剪定して短く尖った枝や脇から出た枝は,刺してもよし引っかけてもよし,はやにえ土台用にピッタリ。 ![]() 前回の短時間の捜索で,はやにえが3つ見つかったことに気をよくして,2002年11月26日,吉備路に向かった私は,もっと広範囲に探すことにした。 はやにえハンター出動だ。 まずは前回見つけておいた,はやにえのチェック。 あったあった。ミイラ化が進んだり,部品がボロッと取れたりしているものの,まだ健在。 その場所を始点にして,梅林をグルッと廻りながら眺めていく。 おお,さっそく梅畑に行く手前でカナヘビ発見! こっちにはアマガエル,そしてバッタにコオロギにー 歩くたびにどんどん獲物が続々みつかるって,スゴイぞ〜! ここの梅林沿いは「はやにえストリート」だ!
「はやにえストリート」の傾向と考察 「梅林はやにえストリート」にズラズラと並んでいる獲物を眺めていると,その場所の傾向が見えてくる。 ●ほとんどが目線+αの高さにある ●道沿いの梅が多い ●一本の木では,南東の位置に多い ここでちょっとモズの狩の様子をみてみよう。 木の上から見下ろしていて,一気に斜め下に飛び降り,ガサガサっと数秒で漁った後,すぐさま同じ木に戻ってくるバンジーボール猟法,そして,飛び降りて漁った後,最寄りの枝にサッと留まるワンバウンド猟法。この2つが多い。 共通していえるのは,この戻ってきた高さが人間の目線前後の高さが多いということだ。 そのときに獲物をくわえていれば,そこでモグモグ食べることになるし,刺したい気分がムラムラと湧けば,はやにえになるのではないか。 よって,目線の高さが多いというのはそういうことのような気がする。 ![]() 南東に多いというのについてはなぜだろう。 やたら端っこを歩きたがる人がいたり,ジャンケンでいつも最初にチョキを出してしまう人と同じなのかも。 なくて七癖,きっとモズそれぞれにも癖があるのかな,とも思ったりする。 遠くの不審な小鳥 そんなことを考えながら歩いていたその時,パタパタパタ,遠くで小鳥が地面から飛び立った。そして,すぐ脇の杭の線の上に留まってゴソゴソしている むむむ,なにやってるの? 「はやにえ制作現場?」といきり立ったが,その小鳥の種類も遠くて解らない。 ![]() やっと解るシルエット,それは下眼線(目のあたりの模様の線)がうっすらと ![]() ジリジリと近づきその距離30m。じれったくも離れた木陰から飛馬姉のように様子をうかがう。 パタパタパタ。 しばらくして飛んだ。 さぁて,ゆっくり現場検証といきましょうかー。 はやにえ大集合 吉備路というのは,いわずと知れた観光地で,周囲の田圃にレンゲを蒔いたり菜の花を蒔いたり,いろいろと魅せることをしてくれる。 そのモズがとまった線の内側は,初冬というのに季節外れの菜の花が満開だ。そのこじんまりした畑を保護する上で,有刺鉄線がクルリと張ってある。 総長はほんの約60mほどの長さだろうか。 とげとげ恐怖の有刺鉄線自体,これは今どき珍しいなぁ。 モズらしき鳥がが留まったのもこれ。
ドキドキしながら近づいてみると,予想通りイモムシがダラリとぶら下がっていた。 さてこのイモムシ,薄黄緑色でまさしく菜の花畑で見られるヨトウムシ類。そのフレッシュなはやにえは見れば見るほど柔らかそう。 手を伸ばして触ってみたその時である。 うわぁーーーー! 動いた! なんとまだ生きていたのだ。 ![]() 驚きを通り越して感動すら覚える。 この動くオカルトなはやにえは,その側にあと2つ出来ていた。 さっきモズが広場から飛び立った場所,そこは菜の花に付いていた幼虫が蛹になるために,広場を爆走していたにちがいない。そこをさらってここに突き立てたのだろう。 この食材豊富な菜の花畑の有刺鉄線,クルリ一周ではどれくらい見つかるかな。 「はやにえ訪ねて60Mの旅」に出発〜。 1,2,3,・・・あれ? はやにえって個?匹? どう数えるんだっけ。 どうでも良いことを考えながら巡ってみると,モンシロチョウの幼虫に,ヨトウムシ,そしてアマガエルにバッタに・・・ 総勢,なんと26個ものはやにえが,有刺鉄線に突き刺さっていたー!
はやにえパズル たくさんのはやにえを眺めていたら,刺し方までわかることがある。 ![]() これは嘴でしごかれた跡だ。 有刺鉄線に引っかけて下方へぐぐっと力を入れて突き刺しているってことだ。 はやにえ作りは,グッと力が要ることなので,パーツの接合が弱い生き物はきちんと刺せず,引っ張っているうちにブチッとちぎれてモズ真っ青ーという状況だってあり得る。 ![]() げげっ,中から卵がいっぱい出ているようだなぁ・・・ と思いながらすぐ側を見たら,コオロギ前半分部分がすぐ側の枝にあった。 ![]() つまり,コオロギを捕まえて,はやにえにしようと引っかけて力を入れたら,腹部がちぎれてしまい,どうしようと焦った?モズは,その腹部をとなりに突き立てたのではないか? コオロギのバラバラ事件はこう推論される。 仰天! はやにえ後日談 さて,その後12月12日。 再び現場にはやにえを見に行った。 増えているかな? それとも減っているかな〜? さっそく例の有刺鉄線を数え始めてみて…うわぁ,仰天だー! 菜の花畑の1辺を数え終わらないうちに,軽々前回の記録26個を越えてしまったのだ。 ビックリのその数,なんと94個。 60mに94個である。 一日2個の割合で増産しても,まだ足りない。 しかも,1メートルに1.5個のあることになる。 う〜〜む,さすがはやにえ最盛期である。 メニューとしては,カエルやバッタは新たなものはなく,増えたのは新顔の毛だらけ毛虫複数,ムカデ2匹,カメムシ,ミミズなど。 季節によって,またその環境によっても,また違ったはやにえの醍醐味が味わえるというわけだ。
はやにえの姿ってゲッと気持ち悪い部類にほかならない。 ところが,モズという鳥があいだに入るがゆえに,「なんで?」「どうして」とその行動と,獲物発見には感動さえ覚えてしまう。 そして,1つ1つの推理を進めていくと,より一層楽しさ倍増だ。 はやにえ,それは季節限定,神出鬼没,しかもいつまでもあるとは限らない。 そして,たとえ目の前にぶら下がっていても,アンテナの出方でピピッと見えたり見えなかったりする,そ〜んな不思議な存在に違いない。 そこがミソ。 だからはやにえハンターはやめられない。 「皆さまからのはやにえ情報」へ |