モズの「はやにえ」はとってもグロテスク!
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1998年11月30日,秋も終わりの日曜日の朝のこと,主人が呼びに来る。
「モミジの木になにがあるでしょう?」
まだ赤い葉が半分残っているわが家の庭のモミジをしらみつぶしに探しにかかる。
「うわっ,生々しい・・・!!」
目の高さより少し上,何とそこにはハサミムシが串刺しのごとくモミジの枝に突き刺さって哀れな姿になっていた。朝日に照らされ,黒腹がきらめく。いわゆる,モズの「はやにえ」だ。 モズは昆虫やトカゲ,カエルなどを捕らえて枝の先に刺しておく奇習があり,これをモズの「はやにえ」という。
この辺りになわばりを持つモズがいるのは知っていた。ときどき電線や木のてっぺんに止まって「キチキチキチ」とやっている。きっと犯人は彼だろう。早速一番弟子の長男に指令を出す。
「はやにえが見つかったら報告してよ。幼稚園,友達ん家,どこでもいいから見に行くよ」
「はやにえって?どこがおもしろいん?」
一からの説明,どうやら理解してくれたらしい。が,いろんな話がこんがらがってしまって「ジョウビタキのはやにえ」などと口走っている。
印象的なはやにえとの出会い,それは4年ほど前。私は歯医者の椅子に座っていた。治療の時間待ち,管を口につっこみ大口あけて身動きとれず状態。する事といえば窓の外のカイドウの木を眺める程度。早春のうららかな日差しと共に目に入ってきたのはカイドウノ木に突き刺さり,ぶらーんとぶら下がったカナヘビだった。
「んがっ・・・」
管をはき出しそうになる。歯科衛生士さんにカナヘビが,はやにえが,と説明するが,
「気持ち悪い」
の一言で片づけられ,ちっとも感動は伝わらなかったのが悲しかった。
そして12月6日,ハサミムシに続いて第2の犠牲者がでた。オオカマキリである。実はこのカマキリ,わが家の飼育ケースで生まれ庭のモミジの木に住み着いていた。
「寒くなったのに長生きね。エサは食べているのかな?」
私はこのオオカマキリに愛着があった。犠牲になったハサミムシの周りをチョロチョロしていたので
「今度はこのカマキリがはやにえになったりして」
と冗談で主人は言っていた。だんだん隠れみののモミジの葉は落ちる。しかも茶色の枝に緑の体は目立ちすぎる。モズの目に留まるのは当たり前。そして悲劇は起こった。
この日の朝,オオカマキリは腹部の途中でちょんぎられ,モミジの枝に逆さまに突き立てられてい た。まだ断面からは体液が滴っている。お気に入りのカマキリの無惨な姿にはショックだったが,これも自然の成り行き。出来たてのはやにえにお目にかかることは滅多とない。思わず見入ってしまった。ハサミムシからは1メートルほどしか離れていない。
「じゃあ,その他の部分は?」
真下の地面には,前ばね2枚,後ばね2枚,前足1本が散乱する。では,頭部,胸部,腹部半分,他の足はどこだろう。捜索するが見つからない。食べたのだろうか?
その時ちょうど魚釣りから主人が戻ってきた。待ってましたとばかりにモミジの木に連れていく。
「ちょっと見て見て」
「うわあー,やっぱり・・・。でも1番おいしそうな腹だけのこっているのはどうしてかなあ?」
こんな時にはモズの気持ちになってみる。あっ,カマキリ発見,よしゲット,おいおい暴れるな,カマを振ると痛いじゃないか,痛いからカマや頭から食べてやる,むしゃむしゃ,ああーお腹いっぱい,残りは刺しておくか−。
実際,はやにえは一体どうしてするか,いろんな説がある。エサの蓄えにする,取ってはみたが嫌いな餌を刺しておく,丸飲みできない餌を裂く,食べきれなかった物を刺す。本当のところはモズに聞いてみなければわからないだろう。
いずれにしろ,このモズのはやにえは狭い範囲にたくさん見られるらしい。ということは,すでに2匹刺さっているわが家の庭のモミジの木は「はやにえ団地」と化してしまったようだ。ただいま分譲中といったところ。春になり,モミジの葉が茂るまでの間,グロテスクな「はやにえ」がさらに何匹お目見えするか楽しみである。
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