11.25.mon
さぬきうどんはうまい。
これはまぎれもない事実である。
先日「どっちの料理ショー」でさぬきうどんvs札幌ラーメン対決をやっていたけど、さぬきうどんの圧勝という結果は至極当然だといえるだろう。かつて高松に7年住み、その後も折りにふれてさぬきうどんとふれあい続けているぼくとしては、「ふはははは三宅裕二め、思い知ったか!」などと思わずテレビの前でふんぞりかえってしまったものだ。
味噌がなんだというのだ! 野菜がなんだというのだ! そんな姑息なオマケで勝負を挑んでくる札幌ラーメンなどにさぬきうどんが負けるわけがないのである。ダン!(机の叩く音)
さぬきうどんは麺だけで勝負ができる。それほどの圧倒的パワーを秘めているのだ。これにカツオといりこ、昆布でとった絶妙のダシが参戦すればアジア最強。生醤油&ネギとのコンビネーションなら世界最強になる。個人的には、とろろと生卵&かけ汁という組み合わせならデスラー総統もひれ伏す宇宙最強の味の完成だ。
先日、名古屋に住む友が久しぶりに帰ってきた。彼はかつて香川県に住んでいたことがあるので、「久しぶりにうまいうどんが食いたい」という。さっそく瀬戸大橋で讃岐の地へ渡った。
高松の郊外、雑居ビルの1階にひっそりとたたずむ小さなうどん屋へ、ぼくは彼を案内した。
カウンター席につき、ともにぶっかけうどん(冷)を注文。お冷やをひと口すすってやれやれと店内を見渡しているうちに目の前に器がススッと運ばれてくる。
おもむろにかけ汁をうどんの上に「おりゃっ」とかける。
箸でぐるぐるとかき回す。
頃合を見計らってうどんをひとつかみ箸で取り上げ、口の中に放り込む。
ずぞっ、ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞっ。
…………(目を閉じている)。
ずぞっ、ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞっ。
ぞっ、ぞぞぞっ、ずぞぞぞぞぞぞぞっ。
ばばっ、ずばばばばばばばっ。ばずばばぞぞぞーっ。
んぐ、んぐ、んぐー(汁を飲み干す)。
「ふう……」
じゃ、行くか。290円ね。ごちそうさま。
わずか10分足らずのエンターテイメントである。
のれんをくぐって見上げるは小春日和の讃岐空。
「やっぱうまいわ、さぬきのうどんは……」
夢のような喉越しと麺の歯ごたえを思い出しつつ、ぼくらは車に乗り込んだ。
「さあて、次のうどん屋へレッツゴー!」
さぬきうどん。
まだこの味を体験したことがない人は、ぜひ香川へ来てほしい。そして地元の人をつかまえて、うどんがうまい店を尋ねてみてほしい。そこへ足を運び、店おすすめの一品を味わってほしい。「まずい」なんてことはありえない。香川のうどん屋にハズレなどないのだ。
讃岐の人は日々うどんを食っている。「どっちの料理ショー」では喫茶店のモーニングでうどんが用意されている店があることを紹介し、出演者たちの失笑に近い驚きをかっていたが、これは讃岐の人とうどんとの親密さをあらわすひとつのバロメーターにはなるだろう。まあ、どの喫茶店もモーニングでうどんを出すわけじゃないけど、「最近は昼にうどんばっかり食ってたから、たまにはちがうもんでも食おうか」と喫茶店に入ってランチを頼んだら、その日はうどんがランチだった、なんていう実話もあるぐらい、うどんは讃岐の土地にどっかと根を下ろしている。
つまり讃岐の人は舌が肥えているのだ。うどんの味にとにかくうるさいのである。そんな讃岐の人を相手に商売しようと思えば、店のほうとしても「ヘタなうどんを出したらやばいことになる」と気合いが入り、おのずと味のレベルも高次元でキープされるのである。
だから香川のうどんは総じてうまい。
たとえ地元の人が「あそこのうどんはちょっと、ね……」と含みのある言葉でそれとなく「あそこは観光客向けの味さ」と吹聴するような店でも、他県の人にはカルチャーショックに等しいうまさを秘めているはずだ。
その味を知ったら、さらにその上をゆく味を知りたくなる。セルフ店、一般店……地元の人が日々通う店は、さぬきうどんの奥深さを知るいいきっかけになるにちがいない。そのさらに奥には製麺所系の穴場探索が待っている。看板ものれんもない店先(というか民家の軒先に近い)で地元民にまじってうどんを「ずばばっ」とすすれば、めくるめくさぬきうどんワンダーランドのはじまりである。
最近はさぬきうどんのセルフ店が全国に展開しているらしいけど、これだけは言える。
「それもうまいが、讃岐の地で食ううどんはさらにうまい!」
ぜひご賞味あれ。 |