ホワイトデー綺想曲

§その3:努力……?

「えぇっと……確かここに入れたはず……っと」
 大事なものを仕舞うためにちょっと奮発した耐火仕様の手提げのケース。
 そこに入っているものの数はそんなに多くはない。
 その数少ない中から,1枚の書類を取りだした。

「……G県M郡上牧村の……」
 お爺さんから渡された地所の権利書。
 そこに書かれている住所をメモ帳に書き写す。
「大丈夫……かなぁ……」
 正直を言えば……かなり不安。
 バス停から徒歩で3時間あまり掛ってるし……。
 それでも,他に手段を思いつかないんだから,やってみるしかない。
 権利書を元のように仕舞い込んだ僕は,メモ帳を持って外へ出た。
 今日はバイトが昼からだから朝のうちなら余裕はある。
 その間に済ませなくっちゃ。


「……おぉ,そうだ,上牧村の…………そう,そうらしい……。……んで?」
 カウンターの向こうで電話している人の声が切れ切れに聞こえてくる。
 やっぱり……無茶だったかなぁ……。
 そんなことを考えているうちに話し終わったらしく,その人が受話器をおいた。
大丈夫 だってよ」
「え? ホントですか?」
 半ば無理だと諦めていただけに,思わず尋ね返す。
「向こうの担当が言うんだからそうなんだろーよ」
 明るい声にほっと安堵の息をつく。
「それじゃ,送る時にはよろしくお願いします」
「毎度ーっ!」

 よし,これで何とか……ってことになればいいなぁ……。



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