ホワイトデー綺想曲
§その4:異変
少々山深いプラエトーリウム=ソムヌスの近辺もすっかり春の気配に包まれたその日,この館の住人たちは初めての事態に遭遇していた。
「天璋院さん,お届け物で〜す」
「はぁ〜い」
「へ?」
「うにゃ?」
「えぇっ!?」
「何?」
玄関の外に立っていたのは濃緑色の奇妙な光沢のある上着を纏い,同色の帽子を被った若い男。手にはなにやら箱を持っている。
「まぁまぁ,遠いところを御苦労様ですわ」
いつもと変わらぬ様子でにこやかにフィンが応対する一方で,マージとアメリアは険しい表情のまま小さく言葉を交わしている。
そんな二人の様子に険しい雰囲気を感じ取りながら,しかし,エリカとフォニームはこの未知の事態に対する興味を抑えられずにいた。
結界に包まれたはずのこの館への人間の来訪。それだけでも充分な異常事態であるにも拘わらず,フィンの様相はそんな緊張感は微塵も感じられない。
いや,そもそもこの結界を施しているのがフィン自身である事を考えれば,これはフィン自身が意図しての結果なのだろうか。
だが,何のために?
疑問はつきない。
「フィンさん!?」
男が去った後のロビーに真っ先に駆け込んできたのはマージだった。
「あらあら,マージちゃん。ちょうどよかったわ,皆を呼んできてくれるかしら?」
「呼ぶまでもない」
アメリアの言葉通り,既に全員がその場に揃っている。
「まぁまぁ,ちょうどよかったわ」
相も変わらずにこやかな表情を浮かべているフィンに対して,集まった面々(特に警備を担当しているマージとアメリア)の表情はあまり穏やかなものではない。
だが,そんな彼女らの心境を知ってか知らずか,フィンはマイペースにぶちまけた。
「ご主人様から お荷物が届いたわよ〜」
「「「「えええぇぇぇっっっ!?!?!?!?!」」」」
その一言は,かつてのミラルカと対峙したときのソレを上回る混乱をもたらしたと,後にマージは糾に語った。