ホワイトデー綺想曲

§その5:荷物

 G県M郡上牧村字○○○
  プラエトーリウム=ソムヌス
 天璋院様方
   フィン=テンニエス様
          他皆様

 フィンが差し出した箱の上に貼られた紙には,やや擦れた文字で,確かにそう書かれていた。もっとも,その文字を文字として正しく認識し,理解できたのはマージとアメリアだけであったのだが……。

「これって……つまりは私たち全員にってことですよね…」
 皆を代表するようにして,マージがそこに書かれている事柄を確認する。
「えぇ,そうね」
「でも……何なの,コレ?」
 そんな年長者たちのやりとりなどお構いなしに,フォニームは自分の好奇心に従ってズバリと核心に斬り込んだ。
「さぁ……なんでしょう?」
 だが,フィンにしてもそれが分かるはずはない。
「開けてみましょう」

 場所を食堂に移して,テーブルの上においた箱をフィンが開く。
 中に入っていたのは,金属の様な光沢を見せる包み。そして,その上に置かれた1通の封筒。
 その封筒の表には,一言「大切な皆へ」とだけ書かれている。
 裏には「天璋院 糾」の署名。
 皆それぞれにとってとても大切な,『ご主人様』からの手紙。
 誰もが無言のままに見つめる中,フィンが口が折り畳まれただけの封筒を開け,中の用箋を取りだした。



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